▽ 先輩と真広とストーカー
※未成年者の喫煙描写があります。
すうっと吸い込んだ煙を灰に満たすと、ゆっくりと吐き出した。
「ぁー…生き返るー」
「おっさんかよ」
真広の行動に笑えば、真広はムッとした表情で俺を睨み付けてくる。
「うるさいですー。しょうがないじゃないですかぁ?最近ほんっとにしつこいんですよ?先輩の従兄弟さん」
「あ?まぁだ引っ付いてたんかアイツ」
従兄弟が真広に会いたいと言うから少し前に引き合わせた。ら、物の見事にストーカー化した従兄弟。
コクンと頷かれて頭を抱えたくなった。
「あんなにしつこいなんて聞いてませんよー。せんぱーい」
「わりぃな。俺もねちっこいとは知ってたけどお前がそこまで疲弊するとは思わなかったわ」
「先輩。あのストーカーさん止めて下さいよー」
「そうだなぁ?被害内容による」
「先輩の鬼っ!」
「おー。知ってる。で?」
言えと目だけで伝えれば、唇を尖らせた真広は「例えばですけど、」と口を開いた。
「いつの間にか使用済みのティッシュが消えていたり、携帯灰皿が綺麗になっていたり、いつ撮られたのか分からない写真が週一で大量に届いたり、気付けば下着や私物が減っているのに何故かその分増えていたり、物の位置が変わっていたりとか、まあ一例ですけどこんなところです」
「分かった。アイツは俺がなんとかするから安心しろ」
「キャー先輩頼もしいー、惚れちゃいそぉー」
「はいはい」
嘘臭い棒読みの言葉におざなりに返事をすると煙草を携帯灰皿に押し付ける。
さて、そろそろ帰るかね。と思った時にバタン!と大きく音を立てて屋上の扉が開いた。
「惚れるならそんな性病持ってそうな男じゃなくて僕にしなよ!真広ちゃん!」
「あ、やっぱり居たんだ。ストーカーさん」
「おい。やっぱりってなんだ。というかお前はいつから聞いていた公人」
「いくら従兄弟だとはいえ、真広ちゃんは渡さないからな!」
「話が噛み合ってねぇよな?」
「僕の耳は真広ちゃん専用だからね!」
「あははー。じゃあ私と会話が成立したことがないのはなんでだろうなー」
真広はへらへらと笑いながら吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付ける。
と、公人は興奮したように自分の手のひらを真広に向けて言い放った。
「ああああ!真広ちゃん!煙草の吸い殻は僕の手のひらの上にっていっつも言ってるでしょ?真広ちゃんの口に加えられた上に唾液が付いてるなんてもう宝だからね!そんな忘れんぼうな真広ちゃんっ、ほんっと可愛い!」
ハァハァと瞳孔を開きながら息を荒げる公人に正直血が繋がった従兄弟という事実を消し去りたいくらいドン引いた。
「……悪かった真広。予想以上にきもかった」
「分かってくれましたー?でも最近、慣れてきちゃったんですけどねー?」
「慣れるなよ。あと、公人?お前何してんの?」
「真広ちゃんの貴重な正面からの写真を撮っているに決まっているじゃないか?」
「そんなさも当然のこと、みたいな顔でいいの止めてくれない?」
「あ、真広ちゃん!目線こっちでお願いね」
「はいはーい」
「真広も何やってんの?」
公人の声に応えるようにポーズを取る真広に突っ込みを入れる。
「いやだから。慣れちゃったって言ったじゃないですかー」
あっけらかんとした表情でさも当然だというようにそう言った真広に本格的な頭痛がした。
「もうお前ら付きあっちまえよ」
最終的に考えることを放棄した俺はそれだけ言うと。
喚く真広とそんな真広を写真に納める公人を前に項垂れた。
end...
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