▽ その震えが少しでも和らげばいいと願いながら
何でも出来て、誰よりも強くて、イジメっ子に仕返しするくらい気丈な子だと思っていた。
けれどある日。君の手が震えている事に気付いた。
そうして俺は、今まで如何に愚かな勘違いをしていたのか悟り、自分の浅はかさを呪いたくなった。
傷付いていなかった訳じゃなかったんだ。
平気な訳じゃなかったんだ。
強かった訳じゃなかったんだ。
ただ、耐えていただけなのだ。
涙を見せずに。恐怖を感じさせずに。
立ち向かうときでさえ、震える身体を隠すために拳を握って。
それでずっと、今まで隠してきたのかと。
ずっと側に居た俺にさえ言わずに。
いや。言わなかった、の間違いか。
言えるわけがないよな。
俺は彼女を強い人間だと思っていたし、どんなことされても動じないと思っていた。
望んでいた、に近いのかも知れないな。
とにかく自分とは違うのだと。そう思っていたのに。
けれど気付けばどうだ。
イジメっ子から俺を守ってくれていた彼女の背中はあんなにも大きく感じたというのに。今はとても頼りなく小さく感じる。
華奢、という言葉が似合うような身体付きで、俺が少しでも力を込めて抱き締めたら簡単に折れてしまいそうだ。
今の今まで気付かなかった。
俺は男で。君は女で。
女の子の方がいくら成長が早いと言っても、今は俺の方が身長は高いし、ああ良く良く見れば彼女の身体なんて俺が簡単に隠せてしまうくらい小さいじゃないか。
戯れに抱き着いたりしているのに、どうして今まで気付かなかったのだろう?
あんなにも小さな身体で震えていて、けれど誰よりも果敢に立ち向かう姿が、
(あんなにも弱々しいのに)
ごめんね。と内心で謝る。
言葉に出して面と向かって言ったところで取り合ってなんてくれないだろうから。
だけど、
「ありがとう」
これだけは言わせてね?
今度は俺が守るから。
君が震えながら俺を守ろうとしてくれたように。
君が震えなくてもいいように、怯えなくていいように。
俺がちゃんと守るから。
驚いた顔をする君に微笑んで、震えている手をギュッと握る。
「大丈夫だよ」
そう言えば君は泣きそうに顔を歪めた。
end...
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