▽ 降り積もる雪のように
『好き』の気持ちにはタンクがあって。
容量が一杯になると、気持ちを伝えたくてしょうがなくなるんだと思うんです。
「……好き、ねぇ…」
困ったように頭を掻いて、苦く笑っている目の前の男。
当然だろう。
話があると放課後の教室に呼び出して、そんな事を言われれば。
ましてやそれが、
「気持ちは凄く嬉しいよ?だけど、ごめんな。“先生”はそれに答えちゃダメなの」
「…知ってます」
「まあ、身近で若い先生に惚れんのも分かるよ?俺みたいに良い男だったら尚更だ」
「自画自賛ですか?」
「ばーか。自分のことを自分が一番好きで居なくちゃいけないんだよ」
「はあ…」
「んでだ、」
今までヘラヘラと笑っていた頬を引き締めた先生は真面目な顔と声でしっかりと言う。
「俺を好きになった理由なんて、きっと他愛ないことだと思う。告白してくれたのも凄く嬉しい。好きって言われて嬉しくないヤツなんてこの世に居ねぇからな」
まして、お前美人だし?
だけどな。
「俺はお前が俺の生徒じゃなくても、その告白は受けない。それはお前が一番良く分かるよな?」
「……はい」
先生の左手に鈍く光るモノ。
ソレは先生が他の誰かのものである証。
「先生」
「ん?」
「もし……」
「?」
「いえ、何でもないです。すみません。聞いてくれてありがとうございました」
ぺこっと頭を下げれば頭をぽんぽんと叩かれた。
その優しさが、今は辛い。
顔を上げられずに居れば先生は「んじゃあ先生、行くな?」と言って教室から出て行った。
「次は俺みたいなヤツじゃなくて、もっと良い男に惚れろよ」
去り際にそんなことを言われて、そのままさっさと居なくなってしまう。
私は一人きりになった教室でしゃがみ込む。
「……先生」
客観的に考えれば分かるはずなんだ。
どう頑張っても先生と想いを通じ合わせることが出来ないんだって。
だけど。
『結婚していなければ、答えてくれましたか?』
無理だって。
倫理的とか、そんなこと以前の問題だって。
私は先生に、異性として見て貰えてなかったんだからって。
分かっていたから。
それでもね、先生?
「好きに、なってしまったんです」
淡雪のように優しい恋心。
溶けて消えるその日まで、私は貴方を思っていてもいいですか?
end...
既婚者の教師に恋した学生の失恋もの。
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