∵あなたが右利きだったと、今頃気がつく

報告書を書くのはいつからか私の役目になっていた。
ナルトが書けば読めないと怒鳴られ、
サイが書けばそれは既に芸術と化していた。


広い図書館に一人でいると、なんだか取り残されたような錯覚に陥って、早く終わらせてしまいたいと気ばかりが焦った。


「負傷者、なし」


残る二カ所の空欄を眺めて、ふと遠い昔を思い出す。

あの頃と変わらない報告書と、
かつて書き込んだ一文が、時々こうして現在とリンクした。





―サスケ君、漢字間違ってるよ


馬鹿にしたつもりは更々なくて、ただ彼も間違いを犯すことがあるのが嬉しかった。



―悪かったな


居心地悪そうに再び鉛筆を握る右手は、何を求めているんだろうと、いつもそう思っていた。




「サスケ君は、右利きだったんだね」



そんな些細な発見を、今になっても繰り返している。
その右手に残ったものが、幽かにでも優しさを伴っていれば良いのにと願った。



向かい合った報告書に、涙が一粒滲んで溶けた。


(20110929加筆修正)


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