∵よわいだらけ
最近どうなの、と決まり事のように尋ねてくる彼女を、奇妙に感じていた。 四六時中顔を合わせていた頃には、思いもしなかった挨拶の仕方だ。最近どうと問われても、見ての通りだと、あの頃なら笑えていたのだと思う。
変わったことなど何も、一つもなかった。 自分を取り囲む風景だけが、早送りの様に過ぎ去って行っただけで、その中心にぽつんと一人佇んでいる。そんな錯覚に、辟易していた。
「変わらないよ、何も」
その事に苛立っているところだとは、心の裡に留めておく。 平然を装って口を歪めた。 何も変わらないことと、何にも囚われていないことは決してイコールではないのだけれど、一つ不満を吐き出したらそこからもう動けなくなる。そんな気がした。
「それってどうなの?」
「深い意味はないけど」
納得したのかしていないのか、その片鱗も見せずに彼女は小さく、そう、とだけ呟いた。 跡形もなく変わってしまいたい自分が、彼女に対して細胞一つも変わって欲しくないと思うのは傲慢だろうか。
或いは彼女もまた、変わってしまいたいと願っているのだとしたら、互いにその道を閉ざし合っているようで、生産性のない話だと頭を項垂れた。
「サクラちゃんはさ、そのまんまで居てよ」
それは無理な話だと、一蹴されてしまえば楽だった。 何を言うでもなく、変わりゆくものを嘆くように、彼女は微笑んでいる。 その余りにも哀しみに満ちた口元が、更に哀しい言葉を吐き出す前に、掌でそっと塞いだ。
(20111201)
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