∵その緑の扉の向こうには

夢を見る。
名も無き花が一面に咲いた草原。
空はうんざりするほど透明で、穏やかな風が頬を撫でた。


見上げた丘の上には、小さな建物がひっそりと建っている。
クリーム色の壁の中心に質素な扉がひとつだけあった。
深い緑色をした木製のそれを、この世で最も美しい色だと思った。
開けることも、触れることもなく、ただじっとその扉を見つめていた。


そんな夢を、見る。






「扉?」

「そう、扉」


ふーん、おかしな夢ね、と大した興味もなさそうにサクラは言った。





任務の合間に立ち寄った甘味処。
店内は生憎と混み合っていたため、屋外の長椅子に三人腰掛けている。
統一性の無い色をした頭がでこぼこに並んでいた。


秋も深まる頃である。
上下左右どこを見ても、紅や黄に染まった葉が揺れていた。
歩道を埋め尽くす暖かな色とは裏腹に、容赦なく肌を掠める風がサクラを身震いさせた。
揺れる桃色の髪を飛び越えて、サイは興味深そうに声を発する。



「で、どんな内容なんですか?」

「んーだからさ、原っぱに緑の扉があって、」



肌を温めていた湯気が、いつの間にか消えていることに気付いたサクラは、手にしていた緑茶を一気に飲み干した。
じんわりと喉から温かさが伝わり、その心地良さに息を吐く。





「君にとってその緑色はきっと大切な何かなんだろうね」

「緑が?なんで?」

「さぁ?僕にはわからないけど」


冷気との競り合いに勝利したサクラの横では、不思議な夢について一つの結論が導かれていた。



「なんだと思う?サクラちゃん」

「え、」


何が、とサクラが聞き返す寸前でナルトの声がそれを遮る。



「あ!」


そうかわかった、とひとり納得して首を縦に振るナルトを一瞥して、説明を乞うつもりでサクラはサイを振り返った。


「…なるほどね」


右も左もどこかすっきりしたような面持ちでサクラを見つめるだけで、その理由は明らかにされない。


「何よ、二人だけで分かり合っちゃって」



男同士の篤い友情なんて今時流行らないわよ、と口をすぼめてサクラはすたすたと長椅子から立ち去って行く。
遠ざかる赤い洋服を眺め、一瞬だけ視線を交えて放った一言が二つの声で重なった。




「目」




この世で最も美しいと思った色が、存外近くにあったことにナルトは甚く満足した思いで最後の団子を頬張ったのだった。






(20081108-20110929加筆修正)
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