∵タナトロジーの帰着点-2

何もかも置いて行ってしまったのだ。
思い出も愛情も、幸福も。
復讐にその身を捧げるべく、この場所で感じた全てを彼は置いて行ってしまった。


必要ないからと捨て置いたのか、
思い出すことのないように蓋をしたのか、
後者を信じる自分を惨めに思った。



倒された写真立てを起こした日から三年が過ぎた。


短くはないこの月日の中で、大きく変わったことといえば彼が里に帰還したこと。
あとは全て些細な出来事だった。

私の髪が腰まで伸びたことも、一人暮らしを始めたことも。

雑務に追われながら、脳内を占めるのはあの家のことだった。
家主の戻った家には明かりが点ることも当然あったが、漂う空気は相変わらず暗く湿っていた。





任務の帰りに、遠回りをして彼の家に向かった。
見上げた二階の窓からはオレンジ色の明かりが洩れていて、彼の在宅を知る。


足元に落ちていた小石を、その明かり目指してゆっくりと放り投げた。
かつん、と小さく音がした後、逆光で黒い影となった彼が現れる。



「サスケ君」



もうご飯食べた?、と聞く私に、彼は小さく首を横に振った。


(090819)いつか続きを書くのかもしれない