∵スプラウトデイズ

鏡に映る自分の体を見て、落胆することがなくなった。
女性らしい体つきとは程遠い、骨の浮き出た上半身。
お世辞にも大きいとは言えない胸も、動くのに邪魔にならない点では満足している。

ただ、時々虚しくなるのだ。
だからそういう日は、浴室以外の鏡を全て伏せるようになった。





「髪、伸びたな」

「放っておいたらこうなっただけよ」


天に届くのではないかという程山積みになった資料に、手を伸ばしながらシカマルは言った。

紙切れといえどもここまで多いともはや怪物に見えてくる。
そんな話に溜息を吐いた直後のことだった。


「何事も放っておくとこうなっていくわけか」


シカマルが視線を移したのは、四方を囲む資料の一山。


「やめてよ、私の髪はそこまで伸びたりしない」

「だといいけどな」


口元を僅かに緩めながら、シカマルは煙草に火を点けた。
曲線を描きながら上ってゆく煙をしばし見つめてみる。


「私、もう忍以外にはなれないと思う」

「……なんだ、突然」


鏡に映る自分の体に違和感を持たなくなってしまったことを話すと、シカマルは鼻で笑った。


「昔は気を使ってたのよ、朝のブローだって欠かさなかったし」

「それが今じゃあ、この有様よ」


ほら、と寝癖だらけの頭を指差す。
長さがあることで辛うじて誤魔化せてはいるが、四方八方に散らばるこの毛先を過去の自分が見たらどんなに嘆くことだろう。


「確かにな、」


頬杖をつき、いかにも興味なさげにシカマルは口を動かす。



「女らしいかという点では、お前は落第だよな」

「あんたに女の何がわかるのよ」

「さぁな」


「ただ、」

「エプロンなんざ着けて、おたま片手に男の帰りを待つようなのはお前にゃ似合わねーよ」


そう言って鉛筆で頭をかくシカマルは、既に我関せずといった面持ちだ。
なんとなく、それが彼なりの照れ隠しのような気がして笑いが込み上げる。
からかいたい衝動を抑えて礼を言うと、満足げにシカマルは笑った。


「まぁあれだ、とりあえず髪は切るなよ」

「なんで?」


「男は大抵の場合長い方が好みだ」

「どこの男の話?」

「さぁな」



ドレッサーに被せたままの埃避けを今日は外してみようかと考える。
跳ねた毛先を見つめていたら、なんだか無性に鏡を見たくなっていた。


(20090223-20110929加筆修正)