∵救われたい二人

仮にあの日、連れて行ってと叫んだ私の手を彼が掴んでいたとしたら。
そう思うとなぜか体が震えた。

本当にそれを望んでいたのだろうか。
生まれ育った里を捨て、ただ彼の隣に居たいがために、私は振り切ることが出来ただろうか。
今隣にある、この柔らかな体温を。



「サクラちゃん、寝ないの?」

「眠くないの。だからいいわよ、休んでて」


交代の時間だからと、熱いお茶の入った水筒を手にナルトが来たのはつい5分程前のことだった。
深々と降り続く雪の中、空へ伸びてゆく温かな湯気は冷えた頬を溶かしていく。


「寒いね」
「うん、寒い」


いつからだったのか、こうして当たり障りのない会話が成り立つようになったのは。
何をしても空回ってばかりの彼を怒鳴りつけていたあの頃が懐かしい。
今は地面を白く塗りつぶす雪をじっと見つめる青い瞳に、ぶつかる度に大人になることの意味を知った気がしていた。



「俺さ、」
「うん」
「本当はサクラちゃんとの約束がないと困るんだ」


視線を此方に戻してナルトは苦笑した。
そんな笑い方、似合わないのに、と私は心中で毒を吐く。
でもそうさせているのが自分であることも、知っていた。


「約束がなかったら、」


冷たい掌に握りつぶされた雪が、ぎゅっと音を立てた。


「サクラちゃんまで行っちまいそうな気がしたんだ」


それは愛とか恋とか、そんな感情ではなくて。
ただ人間として。
守りたい、と思った。
だから伸ばした両手にナルトの頭を包み込んだとき、心底安堵したのだ。


「ごめんね」


彼の頬を伝う涙が、温かな温度を保ったまま私の鎖骨に流れていた。
ここにいるからと伝えたかった。
絶対に見せない弱さを隠してあげたかった。



雪はまだ、止まない。