いつからかイノの耳に開いていたピアスホールは、私の憧れだった。
痛みを享受して体の一部に穴を作ることが、成熟した女性だけに許された行為のようで、そうしていつも私の一歩前を行く。
恩師を失った彼女たちの、三人だけになってしまった小さな世界を繋ぐピアスが、羨ましかった。
同じように三人だけになってしまった私たちには新しい繋がりが増えたけれど、イノは決してそれを羨んだりはしないのだと思う。
あのピアスホールが塞がらない限り、彼女は彼女の世界で生きていくのだ。
それも含めて、イノのピアスホールは私に憧憬の念を抱かせるのに十分だった。

顔を合わせれば喧嘩ばかりの私たちが、本当は誰よりもお互いにとって優しい存在であることを私たちだけが知っている。
慰めばかりが人を救うわけではないことを、私たちだけが信じていた。
眠れない夜が続いて、もっと確かな孤独欲しさにイノを頼ったことがある。あんたの心情に関係なく時間は流れる、世界は変わる、悩むほど立派な存在だとでも思ってるの、とイノは静かにそう言った。その言葉に、私は予想通り孤独を突き付けられて、期待通り眠れない夜から逃れることに成功した。

あなたの気持ちがわかる、と寄り添われてもそれはその瞬間だけの安堵に過ぎない。毎日、毎時間、そうしてくれるわけではないのだから、一人の夜の孤独は増していく。
だからいつだってもっと孤独を与えて欲しかった。

イノはそんな私の心情を見抜いていながら気付かない振りで辛辣な言葉を吐き出す。
私は可哀想って顔でいれば、誰かが愛してくれると思ってるの?、と今日も目の前で不機嫌に話す彼女は、また私の一歩先でこちらを振り返っているのだと思う。
ピアスホールひとつぶん、彼女はいつでも私より大人だった。





0.9oの憧れ
(20120214)


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