もし私の目がもっと小さくて、鼻が潰れていて、口が曲がっていたとして、それでも私を好きだと思う?
サクラちゃんは二重瞼の目をぱちぱちと開閉させて、小さな鼻と薄く弧を描く唇で呼吸しながら聞いた。
もちろん、と答えると不服そうな顔でこちらを覗き込む瞳とぶつかる。続きがあるんだってば聞いて、と早口にたしなめると、どうぞと顎をしゃくってみせた。
勢いに任せて走り出す俺に正しく冷たい風を吹かすのはいつだってサクラちゃんだけど、ある時その立ち位置が逆になる。そうして、姉であり、妹であり、友人である事実に安堵する。恋人になれそうもない二人の関係は、多分俺自身の所為だと、こんな時には改めて思ったりした。


「もちろん、今みたいに一目惚れはしなかっただろうね」

「初めは誰だって見た目から入るもんだよ」


これは明らかに、疑いようのないくらいサクラちゃんを褒めているのだけど、その対象である相貌は相変わらず釈然としない様子だった。


「サクラちゃんの綺麗な色の髪が好きだし、珍しい目の色も、すらっとした手脚も好きだから」

「女らしくない体で悪かったわね」

「なんでそうなるかな。女の子の価値がみんな胸の大きさで決まるわけじゃないってば」

「胸が、とは私言ってないんだけど?」


しまった墓穴だ、と思った時には大抵遅い。
既に頬杖をついてそっぽを向いてしまった横顔は、それを縁取る曲線までもが不機嫌だった。


「でも、結局サクラちゃんを好きだと思う」

「どうしてそう言えるの」

「俺が聞きたいくらいだよ。どうしてそんなに魅力的なの」

「…そんな台詞で私の気持ちが傾くと思ったら大間違いよ」


突き付けられた人差し指に、ようやくこちらを向いてくれたと言って笑うと、ばかね、と哀しそうにサクラちゃんは俯いた。
心の傾きは決して罪ではない。頑なにあいつへの思いに従順でいようとすることの方が、余程罪深い。俺の立場ではそう思う他なかった。


「サスケにも同じことを聞くの?」

「まさか。だってサスケ君を好きなのは私の方だもの」

「そっか」


だったらもしもあいつの目や鼻や口が、福笑いみたいにおかしな並びをしていても、それでも好きだと言えるのか、そう問いかけようとして止めた。
もちろん、と腰に手を当て、どうしてあんなに魅力的なのかしらと惚けてみせるサクラちゃんが容易に想像出来たからだ。
俺と同じことを言っているのにも気が付かずに、根拠のない愛情に酔う。
そんな風に愛してみたからといって、あいつの気持ちが傾くと思ったら大間違いだと、サクラちゃんの言葉を拝借して言うことは、俺には出来ない。
サスケがサクラちゃんを好きでいることを知っている俺には、どうしたって言えはしないのだ。





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(20120131)


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