二年だったか三年だったか。
もしかしたら半年だったかもしれないし、五年だったかもしれない。
とにかくまとまった幾らかの時間の分だけ、顔を合わさずにいた。
それだけのことだ。



「肉まんでも詰めてんのかィ」


雑踏の中、ばったりと出くわした女の胸元に向かって問いかけた。



「その辺のしぼんだ肉まんと一緒にしないでほしいアル」


しぼんだ肉まんとやらを左右に垂れ下げている老婆が、じろりとこちらを見ていたが、それを気にする素振りなど勿論皆無だ。
背筋を垂直に伸ばし、傘を片手にした女は癖のある口調で話し続ける。



「女の第二次性長をなめんなヨ」

「どうだかねィ。本物かどうかも疑わしいもんでさァ」



どれちょいと触らせてみなせェ、と右手を伸ばすと躊躇なく振り下ろされた傘が骨の髄まで打ち砕いた。
かと思う程の音が路上に響いたが、意外にも腕に残るのは僅かな痛みだけだ。


力加減というわけか、とそこで初めて顔を合わさずにいた時の長さを思い知った。
猪のように飛び込んできた、あの頃のような無鉄砲さはもうないのだと、女の体が物語っていた。




ほとんど君は正しい事をした
(20110930)


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