*死ネタっぽいです、閲覧注意してください。








「死ぬのカ」


あまり気分の良い光景でないことだけが、確かだった。
それ以外は、生温い空気も、短く吐き出され続ける他人の呼吸音も、地面の色を濃くする赤い液体も、何もかも霞んでいる。

肩に載せた傘を僅かに揺らして、神楽はこれまでの生涯で初めての問い掛けをした。


「嬉しいか、」


そう言って、にやりと歪められた口の端を見つめる。
人の死を喜ぶほど地に堕ちたとは思いたくない。
決して流れようとしない涙が、体の裏側で眠る残酷さを表しているのなら、それはどうしようもなく悲しいことだ。


「嬉しくはないネ、だけど悲しくもないアル」


「正直だな、やっぱムカつくぜてめーは」


笑っているのか苦しんでいるのか判別出来ない短い呼吸をして、沖田は静かに瞼を閉じていく。
視界を塞いでも、見えるものなどないというのに、死の間際まで馬鹿な男だと腰を下ろす。
神楽の足元に広がる薄茶色の細い髪さえも、徐々に生命力を失っていくようだった。



「俺も、ちっとも悲しかねーんでさァ」


死んだかと思えばまた口を開く。
だから神楽も返事をする。
その繰り返しだった。



「沖田、」


「なんでィ」


「涙が、出てきたヨ」



そうか、と囁くように吐き出して沖田は再びその目を開く。
冥途の土産にと見上げた先には、燦々と輝く太陽。
降り注ぐ涙と相まって、天気雨のようだと思った呑気な性分に、こんな場面では感謝してもいいのかもしれなかった。




嫌いを裏返せば塵が舞う
(20110805)