触れ合うことに意味を求めてしまうと、途端に熱が引いていくようだった。
与えようとしたはずのすべてを、繋がる指の先から無意識的に奪っていたことに気付いたのは、自身を含めた様々なものが成熟してからだったのだと思う。





武器を手に戦場に立つとき、まだこの世界に確かに存在していることを実感する。
逃してはならない一瞬を待つ静寂の中で、体中を冷たい汗が流れてゆくような感覚。
それが生を訴えるのだと思っていた。

視界の端に捉えた見慣れた髪色の持ち主は、亡骸の開ききった瞼に右手を翳している。


「相手は敵だぞ」


誰にでも等しく与えられる彼女の愛情を、疎ましく思う気持ちもあった。
言わなくても分かるような台詞を吐いたのは、単なる八つ当たりに過ぎないのかもしれない。


「敵だった、のよ」


サクラの発する淡い光の元で、遺体の両目は静かにその視界を閉ざしていく。
まるで追悼の儀式のように、ひっそりと。



「行くぞ」


最後の儀式を終えたところで、土の上に膝をつくサクラの右手をとった。
蝋人形のように白く冷たい手首を軽く持ち上げると、僅かな力でもって鳴り続ける脈を感じる。
そこで再び、自分の存在を正確に知るのだ。



「サスケ君の手って、やっぱり温かい」



昔から、と一言付け加えてサクラは笑った。


わけもなく手をとって、生きている現実に幸福を重ねることが出来る。
崩れそうになる自分を誤魔化すためだとか、
不安な夜から逃れたいだとか、
そんな理由を付けてしまうと、繋いだ指先の熱が蒸発していく気がした。



「お前の手が冷たいからな」



だからその手を包むために、この体に温かな血液が流れているのだとしたら、その方がいくらかまともな理由だと思うのだ。



「それって昔から?」

「さあな。覚えてない」



半歩遅れて後ろを歩くサクラの掌は、ようやく人間らしい温度を取り戻していた。




今は青き魚
(20101216)


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