動物園で見たナマケモノに似ている、と言ったら、なれるものならなりたい、と溜息をつかれた。


もう殆どそうなりかけていると思ったけれど言わないことにした。

鏑木はあれ、ゴリラの雌に似てるよ、となんだか仕返しのように言われて、返す言葉に詰まってしまう。


ゴリラに生まれていたら、私はきっと女らしかったと思う、とぼんやり告げると、少し哀しくなった。
ゴリラに生まれたかっただなんて、冗談ではなく本気で思ってしまったことが、哀しかった。


ナマケモノに生まれていたら、俺はきっと情熱的だったな、と私の真似をして呟く藤くんは、心底ナマケモノになりたいという顔をしていた。



例えばそれぞれがゴリラとナマケモノとして新しい生命を手にしても、私たちはこうして同じ場所で時を共有することが出来るだろうか。


心の中で湧いた疑問に答えるかのように藤くんは笑っていた。


なれるともなれないとも言わなかったけれど、同じ木の上で微睡むゴリラとナマケモノの姿を想像したのか、シュールだな、と一言だけ告げて目を伏せた。




静かにカーテンを揺らす窓を見上げると、保健室に近付く騒がしい足音が聞こえていた。





ゴリラとナマケモノの話
(20110204)


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