夏合宿5日目、とうとう精神に異常をきたしてきた。いくら自他ともに認める天才セッターだとしても、彼女に会えないのが相当こたえている。遠征ってほんま何なん?うちの体育館で合宿やればええやろ?なまえと会えんくなってもう100時間以上経過してますけど?なんでまだどこでもドア開発されてへんの???
「あーーーほんっまに無理」
「わかる。練習しんどいよな」
「彼女おらん銀島にこの気持ちは分からんわ」
「唐突にナイフ投げつけられたんやけど何で?」
彼女に会いたい、声を聞きたい、触りたいの3つしか考えられない。無理。ほんま無理。枕に抱きついて布団の上を転がっていたら「気色悪いから俺の枕をなまえに見立てんのやめろや!!」と銀島に奪われそうになる。は?何お前なまえに頭乗っけて寝とるん?許さん
「なまえに会いたい」
「それはできんけど電話くらいしてきたらええやん」
「なまえとヤりたい」
「やめろクラスメートのそんな話聞きたない」
「おい想像すんなや殺すで」
「してへんし理不尽や!!」
少し離れたところから「なんなのアレ」と角名がぼやく声が聞こえてくる。まあ電話するのはわりと名案やし、数分だけでもかけてくるかと思いながら銀島の顔面めがけて枕を投げつける。銀島がグェと鳴いた。
「なんや喧しいな。騒いどんの誰や」
「アカン北さんや!寝とるふりせな!」
「修学旅行か」
「おい銀島」
「なんで俺っスンマセン!!」
はよ遠征終われ。どっかの偉い人がどこでもドア開発してくれるんでもええけど。そう思いながら北さんの目をごまかすべく目をつむる。



地獄のような数日を耐え、ようやっとなまえに会える日がやって来た。いきなりがっつくと引かれるだろうから、帰りのバスの中でカメラロール内の彼女の写真を見まくってイメトレしてきた。怖いもんなんてない、準備万端や。
「侑!久しぶりやなー合宿どうやった?」
いや待って。俺の彼女かわいすぎひん?
会って数秒で撃沈だ。写真と比べ物にならなかった。生きとる人間ってすごいんやなと今さら実感する。なんか良い匂いするし声も可愛ええし肌ツヤフワやし。
「まあまあやったで」
内心お祭り状態なのをつとめて抑えて笑顔を作る。ここでドン引かれては死んでまう、俺が。
「なまえは何しとったん?」
「んー暇やから友達と遊びに行ったり、あとちょっと宿題もしたわ」
「おい俺と夏休み最終日同盟組んどったやろ」
「えへへ抜けがけや!」
かわいい。可愛すぎて心臓発作起こして死んでまいそうや。
カラオケ店に着いて選曲していると、突然なまえが「侑と会えんくて寂しかったわー」とのんびりと口にした。いやどこまで俺のツボついてくるん。鍼灸師か。
「ほんまに?」
「うん」
「かわええこと言ってくれるやん」
「せやろ。侑は?」
「んー?」
少し不安そうに様子をうかがってくるなまえの顔を見て、敗北のゴングが鳴った(気がした)。
「…もうあかんわ、我慢できひん」
「え?は?」
頬に触れて、困惑しているなまえにはお構いなく唇を寄せる。急に何なん、とか言ってるけどこっちは全然急やないんや。むしろ相当頑張った方やし褒めてほしい。
しばらく無駄な抵抗は続いていたが、なまえはほんまに可愛ええなと何度も言っているとようやく大人しくなった。服の中に手を入れたら思い切り引っ叩かれたけれども。
「なまえちゃん、俺も寂しかったで」
「言わんでもよう伝わってきたわ」
「そうやろな。もうちょっと充電させてな」
なまえは耳まで真っ赤になっている。あー生き返ったわ。

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