恐る恐るインターホンを鳴らすと侑の母親がとびらを開けてくれて「なまえちゃん来てくれたんや〜侑が喜ぶわあ」とニコニコしながら言った。手土産を渡して挨拶もそこそこに案内された宮兄弟の部屋に入る。二段ベッドのはしごを上ると彼は本当に具合が悪いみたいで眠っていた。
「侑のあほ」
呟くと寝ていたはずの侑がぱちりと目を開く。
「誰があほやって?」
「起きてたんや」
「部屋入ってきた時に起きた」
「起こしてごめんな」
謝ると、にっこり笑みを浮かべた侑がちょいちょいと手招きする。こっちに来いということやろか。二段ベッドの上だし、私が乗ったら重量オーバーでバキバキに割れてまう。それに私は学校帰りで制服のままやし、ベッドの上に乗ると言うのはお行儀が悪い気がする。
「無理や。ベッド壊れるで」
「しゃあないな。俺が下りるわ」
そのまま寝ときって言いたかったけど、二段ベッドの上に居られると話す体勢が結構つらいから、侑の言葉に従った。下りてきた彼に先生から預かったプリントの束を手渡す。
「ありがとな」
それを無造作に自身の机の上に置いた侑は床にどかりと腰を下ろす。呼吸が荒くて頬も赤いし治の言ってたことはホンマやったんやと余計に実感する。
昨日、侑は熱があるにも関わらず部活に参加して先輩に怒られたらしい。珍しく学校を休んだ彼に連絡すると『大したことないから大丈夫や』と返信がきたが、治が「あいつ熱40度あるらしいで」と言っていたのを聞いて慌てて学校終わりに見舞いに来たと言うわけだ。
「大したことあるやんか」
「だって弱っとるとこ見られたくないやん?」
「うそつく侑なんてきらいや」
おでこに貼ってある冷えピタのせいか、こちらを見上げる侑が幼く見える。彼は笑みを浮かべて私の手を引っ張り、その力のまま侑の正面にしゃがみこんだ。
「来てくれたのは嬉しいと思っとるよ」
ぐいと掴む手に力を込められて、自分のおでこが侑の胸板にくっついた。いつもより彼の体温がうんと高くてこっちまで体温が上がってくる。目の端がじんわりと熱くなった。
「きらい」
「そうなん?俺は好きやけど」
「なら嘘つかんといて」
「それは場合による」
身じろぎして侑の顔を見上げると、こちらを見下ろす彼はにこにこ笑っている。
「あ〜これ夢だったらどないしよ」
「夢ちゃうわ」
侑の頬に手を伸ばして軽くつねると、指先から伝わる体温が熱くてびっくりした。「痛いわアホ」と言いつつ全然痛くなさそうな表情を浮かべながら、頬をつねる私の手を掴んだ彼はそのまま私に顔を近づけて唇を寄せる。目をつむると数秒たって、それから何も感触がないまま距離が離れていった。
「あぶな〜 間一髪やった」
「しても良かったのに」
「アホか。うつったらどうするんや」
侑が私の頬をつねる。唇が何だかさみしくて俯くと「その表情やめてくれ〜」と彼は自身の顔を覆った。さっきから百面相しててオモロいな。思わず笑うとムッとした顔をした侑がさっきよりうんと強い力で私を抱きしめて「さっさと風邪治すわ」と決心したように言う。
「覚悟しといてな」

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