「なまえ、侑がお呼びやで」
クラスメートの花子ちゃんに言われて侑の席のほうへ振り返ると、頬杖をついたままこちらを見ていた彼がちょいちょいと手招きしていた。なんで直接呼ばへんねんと思いつつ、机に広げていたお弁当箱はそのままに「ちょっと行ってくるわ」と友人に断りを入れる。
「ああ〜なまえが侑に盗られてまう」
「ちょっと話してくるだけやし」
たった数メートル歩いただけで我が彼氏の席にたどり着き、やはり花子ちゃんを経由する必要はなかったのではと改めて思う。まあ当の本人は大して何も考えてないのだろう。たまたま側にいた彼女に「ちょっと呼んできてや」と言っていたのが容易に想像できる。席に着いたままこちらを見上げる侑の口元はかすかに孤を描いており、どうせろくでもないことを考えているのだと直感的に思った。
「ちょい購買付き合うてや」
「なんでや、銀島と行けばええやろ」
「俺はなまえと行きたいんやけど、だめなん?」
だめなん?って。こちらを伺うように訊いてはいるが、間違いなくこの男は確信犯だ。私が断れないと知っていて誘ってきている。黙っているのを肯定と受け取ったのか「やっぱりなまえは優しいなあ」とにやつきながら立ち上がり、視線の高さが逆転した。すぐ戻るつもりだったが、友人をもう少し待たせることになりそうだ。

昼休みの廊下は雑談している生徒がわりと居て、ちょうど真昼の日差しが差し込んできているから明るくて好きだ。侑が歩くと何人かの女子生徒が彼に視線を向けているのが嫌でも目に入り、セッター宮侑の人気を改めて実感してしまう。
「今日は昼練ないん?」
「体育館使えんから自主練やって」
「自主練してへんやん」
「休みって意味やで。知っとるやろ」
侑は購買に並んでいるお弁当を吟味しながら素っ気なく答えると、今度は惣菜パンの陳列に興味を移す。これ私が連れて来られた意味あります?
「おばちゃん、これちょーだい」
お気に召すものが無かったのか、侑はよく買っているおにぎりを数個手に取り、購買のおばちゃんにお金を払った。持参してきたお弁当はもう食べてしまったはずやから、今日何回目の間食やろか。スポーツをしている男子高校生の胃袋は恐ろしい。

何故か教室には戻らず、購買のそばの人気のない階段に腰を下ろした侑の正面に立つと「まあ座ろうや」とこちらを見上げて催促してくる。いやいやいや私友達待たせとるんやけど。
「はよ教室戻ろ」
私の言っている意味は分かっているはずなのに、首を傾げた侑は少し拗ねたような顔をして、それから静かに目を伏せる。突然、スカートの端を引っ張られて息が止まった。
「なっ…!」
「なまえちゃん、ちょいスカート短すぎやないですか?」
そのまま中を覗き込もうとしてくるものだから慌てて上からスカートを押さえつけ、空いているほうの手で思い切り変態の頭を小突く。いきなり何やねんほんま!!
今日はたしかにスカート丈を短めに調節した、それは認める。でも大した理由はない。ただの朝の気まぐれだ。頭を小突かれたくせに侑はへらへらと笑っていて、全く反省の色が見られない。
「最っ低!小学生みたいなことせんといて!」
「こっちとしてはなまえのパンツ見えそうで気が休まらんねん。彼氏の気持ちも考えてや」
立ち上がる瞬間に一瞬真顔になったかと思うと、すぐまたニヤニヤと胡散臭い笑みに戻り、見ていいのは俺だけやねんと余計な一言が添えられる。
歩き始めた彼の背中を追いつつスマホで時間を確認すると、昼休み終了後まで20分を切っていた。トイレでスカート丈直して、急いでお弁当食べ終わらないと次の授業に間に合わへん。友達怒っとるやろな。全面的に侑のせいやけど。
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