なまえが耳に突っ込んでいるイヤホンを外してやると、ようやく俺の存在に気がついたのか驚いたように顔を上げた。イヤホンからはちらちらと音漏れしている。俺の声に気づかないとかどんだけデカい音だよ。
「うるせえな」
「この曲は爆音で聴くのがいいんだよ」
外したイヤホンをそのまま自分の耳に入れようとするが、うるさすぎて無理だった。この爆音を聴いていられるほうがおかしい。鼓膜破裂するだろ。
「もう少し音下げろよ」
「飛雄も聞くの?しょーがないなー」
音量が下がって、ようやくイヤホンを耳の中に迎え入れることができる。なまえいわく、いかにもアイドルの曲という感じでアップテンポなので大きめの音量で聞きたいそうだ。俺にはよく分かんねえこだわりだ。
次に流れた曲は、先ほどとは打って変わって、男性の淡々とした曲だった。静かだけど、静かすぎるわけでもない、不思議な曲だ。やけに耳馴染みがいい。
「これ聞いたことある」
「ほんと?飛雄にしては珍しいね」
「去年くらい?にお前こればっか聞いてただろ」
「確かに一時期どハマりしてた」
ちらりとなまえの顔を見ると、視線に気がついたのか向こうもこちらを見た。唇がやたら色づいて見える。化粧でもしてんのか
「飛雄も好きな曲ある?」
「この曲は好き、だと思う」
「へえ」
「何だよその顔」
「何でもない」
なまえが意味深な含み笑いをする。
「言えよ」
「いやあのね、数年後もこの曲聞いた時に私のこと思い出してくれるのかなって思っただけ」
「何言ってんだ」
「えっへへ」
数年後のことなんて超能力者でもあるまいし、俺には分からない。でもバレーボールをしていることと、コイツと一緒にいるのは確実だ。この曲を聴いてなまえのことを思い出すなんて変な話だ。思い出すって過去の奴のことを思い浮かべるって意味だろ。

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