「337センチだった」
「うん 何が?最高到達点?」
「おう」
「すごいじゃん」
なまえがにこにこと笑いながらこちらを見上げていて、何故かむずがゆくなる。昔から最高到達点を更新するたびに報告してやっているが、今回みたいな感覚は初めてだった。風邪でもひいたか?やべえな。
「あ、あとユース合宿に行くことになった」
「へ?」
すごいじゃんとまた言うと思ったのに、なまえはポカンと口を開けてアホ面をした。
「え?ユース合宿って全日本の?」
「そうだ」
「え、えええ!?何でそれ先に言わないの!?」
大きな声をあげて、なまえが席から立ち上がった。そのせいで顔の距離がぐんと近くなる。後ろの席で喋っていた奴らがちらりとこちらに視線をよこした。
「どこで合宿やるの?」
「東京」
「トーキョー!飛雄ひとりで行ける?大丈夫?」
「大丈夫だ」
「……そうだね」
急にしぼんだように、トスンと席に座る。なんか、どんどん遠くなっちゃうなあ。ひとりごとのようになまえが呟いた。さっきまで大騒ぎしてたくせに突然どうしたんだ。視線を合わすべく身を屈める。でも目は合わない。
「たしかに遠いけど、新幹線ならすぐ着くだろ」
「そうじゃないよ」
こいつは日向じゃねえし、競ってるわけでもねえのに何言ってんだと思った。合宿所までは新幹線やら電車やら色々乗り換えるらしいが、武田先生が丁寧に教えてくれるらしいので、一人でも何とかなるだろう。携帯電話という連絡手段もあんだし。こちらを見上げて、頑張ってねと言う声はやけにか細い。



5日間の合宿を終えて、月曜の朝になまえが「これ公欠分のノートとプリント」と言いながら机の上にどさりと紙の束を置いた。寒いのか、カーディガンの裾から見える指先はほんのわずかだ。
「どうだった合宿」
「すげえ飛ぶ人がいた」
「ほお」
「あと、おりこうさんって言われた」
「褒められたの?」
「いや違うと思う」
始業の鐘が鳴って、なまえが席に戻っていく。指先はほんの少ししか出さねえくせに、脚は普通に晒してんの意味わかんねえ。スカートってすげえ寒そうなのに、実はものすごく暖かくなる機能でもついてんのかな。それか女の太ももは男よりも丈夫にできてるんだろうか。わっかんねえな、今度アイツに聞いてみよう。
聞こうと思ってたのに、次の日なまえは学校に来なかった。何でも風邪を引いたらしい。本人に聞かずともわかった、やはりあのスカートの短さは寒いようだ。
「とびお」
鼻をズビズビ鳴らしながら俺の名前を呼ぶ声は普段よりもたどたどしい。
「なんで来たの。うつっちゃうよ」
「俺はそんなヤワじゃねえ」
部活終わりに様子を見に行ってみたら、なまえは予想よりもつらそうだった。手を握ってみると「なんで来たの」ともう一度言われた。来たら駄目だったのかよ。
「心配すぎて?」
「そんなわけねえだろ」
「優しいね」
「だから違うって」
「ありがと」
「早く寝ろ」
なまえがゆるやかに笑う。額がじんじんと熱い。

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