「あしたの試合観にいっていい?」
「いいけど なんで明日試合って知ってんだ」
「顔に書いてある」
日向あたりに顔に油性ペンで書かれたのかと思ったけど、あいにくそんなことをされた覚えがない。鏡貸せって言ったら変な顔をされたから、顔になに書いてあるか見んだよと答えると思いっきり爆笑された。なんなんだよ、わけわかんねえ。
「はい鏡。なにか書いてある?」
「…なんも書いてねえじゃんかよ」
「そんなこわい顔しないでよー」
俺の眉間をぐいぐいと伸ばすなまえはまだ笑っている。手を振り払ってやろうかと思ったものの、そんな気力が湧いてこなかったので大人しくなまえの気が済むまで待った。
「試合前の飛雄はいっつもそわそわしてる」
「そうか?日向ほどじゃねえだろ」
あそこまでそわそわ煩いやつは日向くらいだ。俺のはなんていうかあれだ、ムシャブルイってやつだ。使い方合ってんのか?こないだ田中さんに教えてもらった言葉だけど。緊張でそわそわしているわけじゃあない。
「バレーたのしい?」
「そうじゃなかったらやってねえよ」
「たしかに。そうだね」
私はバレーやってる飛雄観てるのがたのしいよ、って言われたときは馬鹿にされてるのかどうか分からなかった。なまえはときどき気まぐれに試合を観に来る。俺がバレーを始めたときからずっとそうだ。バレーを観てるときのなまえはいつもとは比べものにならないくらい大人しい。大抵すみっこのほうでこちらを眺めているらしい。声をかけてくれたっていいのにとは思うものの、きっと男子の集団に飛び込むのは躊躇してしまうのだろう。
「じゃああした、がんばってね」
このたったひとことで、無性にやる気がでるのも不思議なことに昔からずっとである。



「おい影山!彼女観に来てるぞ!」
「うるせえな知ってるよ つーか彼女じゃないっての」
日向がうるさいことこの上ない。彼女じゃないとあれほど言ったのにまだ言ってやがる。そうかこいつ馬鹿だった。馬鹿だから理解できねーのか。なまえは相変わらずすみっこのほうで大人しくしていた。もうすぐ試合がはじまる。しんと息を吸う。
「ファイト!」
なまえの声が聞こえた気がした。
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