すっかり帰りが遅くなってしまった。夜の街に浮かぶ人工の明かりが車窓の外を走っている。電車にがたごとと揺られながら暗闇を眺めていたら不意に携帯が震えた。飛雄からのメールだった。
『あしたの小テストの範囲どこだ』
へえ勉強するんだ珍しいと思いつつ、家着いたら教えるから待ってて!と送り返す。数秒後すぐに返事がきた。今日はやたらと返信はやいなあ、いつももっと遅いくせに。
『はあ?まだお前帰ってないのかよ。今どこ?』
どうやら飛雄は最寄りの駅まで迎えに来るつもりらしい。おかしなこともあるものだ。もう夜遅いからという理由だけで迎えに来てもらうのは申し訳ないからと断ってもむだだった。
『勝手に帰ってきたらブッ飛ばす』
携帯の画面に浮かんだ文字はやたら黒々としている。飛雄にブッ飛ばされるのはごめんだ。



「なんできたの」
「なまえの母親が家にいないなら俺が行くしかないだろ」
「意味がわからないよ」
電車を降りて、改札も出て、駅前で少しだけ待ってたらほんとに飛雄が来た。まあたしかに駅から自宅まで多少は歩くから暗い夜道はこわいけれど、幼なじみはわざわざ迎えに来てくれるものなのだろうか。ちょっと全国の幼なじみさんたちにお訊きしてみたい。ということは、飛雄の帰りが遅くなったときには私が迎えに行かなければならないということか、それはめんどうだなあ
「ばっか違えよ。お前が女で俺が男。それだけだ、かんたんだろ」
「たしかに飛雄の目つきで犯罪者を追っ払うことはできるね」
「そういうことじゃねえよ」
話がちぐはぐだ。噛み合わない。電柱の明かりが少ないせいで道は真っ暗だ。こんなところを一人で飛雄は通って来たのかと少し感心した。こわくなかったのかな。いま私は飛雄のおかげでちっともこわくはないけれど。
ぼんやり自分の影を目で追っていたら不意に腕を引っ張られて口を手で塞がれた。小さく悲鳴をあげてもちっとも外に漏れない。あまりに急のことだったから隣の飛雄の仕業だとわかっていても、驚いてしまうのは仕方がなかった。
「こういうことだ」
「うん」
まだ心臓がどきどきしている。そうか、飛雄がいなかったらこんなことも起こり得るのか。でもこんなに心臓がびっくりしているのはそれだけじゃないと思うんだよなあ
戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -