なまえがキレた。原因はさっぱり分からない。一応からっぽの俺の頭脳をいっぱいいっぱいに使って考えてみてもちっとも思い当たることはなかった。明らかに俺を避けているなまえを見ていたらだんだんこっちだっていらいらしてくる。なんで俺はなんもしてねえのになまえに避けられなきゃなんねえんだよ。
「影山が悪い」
「なんでだよ」
「そういうときは影山がだいたい悪い」
日向に相談してみたら胸糞悪いことを言われて腹がたったので服を引っ掴んで投げたけど綺麗に着地しやがった。こいつに相談した俺がバカだった。こういうとき、バカはバカなりに行動しなければならないのだと思う。
なまえに直接訊くのが一番だ。そう考えた俺はこの間から話しかけるタイミングを狙っているのだけれど、常に友達と一緒にいるものだからなかなか話しかけられない。女の集団からなまえだけ呼び出すというのは大変に勇気のいることだ。集団になった女共はおそろしいほどの威力がある。やっとのことで授業が終わった後に彼女をつかまえることができたとき、もうなまえは帰る用意をすっかり済ませてしまっていた。
「おい、なまえ」
「今日は友達と帰るの」
「うん ちょっと訊きてえことあるんだけど」
「なあに」
「なんでキレてんだ」
ぎゅうと眉間に皺が寄った。別にキレてないよ、と言ったなまえは明らかに怒っている。なんなんだよ、わけわかんねえ。
「おぼえてないの?」
「は?なにを」
訊き返そうとしたらちょうど名前を呼ばれたなまえは俺を一瞥すると教室を出て行ってしまった。ぽつんと取り残されたハテナマークだけが俺の周りをぐるぐる彷徨っている。



「うげ」
夕飯が終わったので走ろうと思って外に出たらちょうど同じタイミングでなまえも家から出てきた。変な奇声をあげたなまえはそのまま家の中に戻ろうとするので大慌てで近寄って捕まえる。
「ま、待ち伏せなんて卑怯だぞ…!」
「待ち伏せてねえよ たまたまだよ」
逃げないように掴まえた腕はびっくりするほど細い。こいつちゃんとメシ食ってんのか。ぐいぐいと俺を押して遠ざけようとする反対側の手も掴んだらなまえはおとなしくなった。
「それで、何の用かね影山くん」
「なんで俺のこと避けんだよ」
「避けても支障なんてないでしょうが」
「なんか変な感じすんだよ」
一瞬黙る。なにこの天然タラシやだーとなまえは腕をばたばたさせた。天然タラシってなんだ。魚の名前か。
「そういうとこに怒ってる、ほんとに覚えてないの」
「覚えてねえよ」
「寝ぼけて好きとか言ったくせに」
「は」
「幼なじみと好きな女の子の区別くらいつけなよ」
小さく言ったあとに、からからと笑ったなまえがなんだかとっても小さくみえた。区別なんてつける必要ねえのに何言ってんだこいつ
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