「クニミくんってそんな人だと思わなかったってお前が勝手に俺の性格妄想して勝手に寄ってきたんだろバーーーカ」
「本性漏れ出てるよ国見くん怖い怖い」

 ついさっき彼女に振られてきたのだという国見は眉間に皺を寄せてポケットに手を突っ込み、これでもかというほど全身から不機嫌オーラを放っている。大股で歩くものだから付いていくのがやっとだ。
 今日はせっかくの土曜日だというのに、数十分前に「俺の機嫌直してくんない?」といきなり電話で呼び出され、必死の拒否も叶わず、何と家の前まで来ていたので対応するしかなくなってしまったのだ。母上に「国見くん来てるわよ」って10回くらい言われたらさすがに出るしかない。仲良いわねって母はご機嫌だったけれど、昔からいいように使われているだけだ。

 案の定、出たらこれだ。やだもー分かりきってたじゃん。なんで私のところに来るわけ。意味わかんない。もう高校生なんだから自分の機嫌くらい自分でなんとかしてほしい。ていうか金田一のところ行けば良いのに。

「ど、どんまい。国見ならすぐ次の彼女できるよ」
「は?何言ってんの?俺は好きでもなんでもない奴に、好き勝手言われたのがくそムカついてんの」
「もう可愛い子に告られたらとりあえず付き合うのやめたら?」
「彼女いるほうが色々都合がいい」

 このモテ男め。そういや以前、彼女がいると他の女に言い寄られることが減るから楽だと言っていた気がする。でも毎回、部活ばっかりで構ってくれないとか、思ってたより冷たかったとか、同じような理由で振られている。国見はいつも飄々としているが、似たようなことが続いてさすがに腹がたったらしい。

「機嫌直せって言うけど、私何したらいいの」
「そうだなあ、ちょっとそこで踊ってみてほしい」
「絶対いや」
「何ならしてくれるわけ」
「なんで国見は私に何かしてもらおうと思ってるの?」
「これは俺じゃどうにもならないんだ。なまえだけが頼りなんだ」
「めっちゃ棒読み」

 国見に従うままに住宅街の中をぐるぐる歩いていたら、いつのまにかコンビニの前に着いた。さっきよりもだいぶ平常心を取り戻したように見える彼はそのままコンビニに入って行く。お菓子コーナーに直行すると陳列棚を吟味し始めた。
「あっこれ美味しいんだよ」「へー」
 適当に眺めていると、国見はキャラメルやらポテチやらをカゴに放り込み「えっなまえちゃん買ってくれるのありがとー」とまた棒読みで言った。ちゃん付けで呼ぶなんて珍しすぎて鳥肌たった。
 そのままさっさとレジへと向かうものだから慌てて後を追う。ちょっと待って。買うなんて言ってない。国見は平然とレジでカゴを渡し、何も知らない店員さんは商品のバーコードを読み取り始める。「5点で676円です」そう言われて財布から1円玉がうまく出てこなくて内心焦っていたら、隣からすっと千円札が出てきて店員さんがそれを受け取った。

「焦った!結局国見が買うんじゃん」
「あとで請求させてもらう」
「一個くらい私にもくれるよね?」
「全部俺のだし」

 相変わらずだなと思ったけど、傷心中らしいから今回は勘弁してあげよう。あと、コンビニのお菓子で機嫌を直すなんて正直ちょっと可愛い。

 コンビニから少し歩くと、小さい頃よく遊びにきた公園についた。土曜日だからか、小学生くらいの男の子たちがボールを蹴って遊んでいる。国見はブランコに座って、レジ袋の中からさっき買ったばかりのチョコレート菓子を取り出した。長い足を持て余していて、ブランコに座っている姿はなんだかアンバランスだ。私も隣のブランコに座ると、鎖が揺れてくらりと重心がずれた。

「毎回言ってるけど、ちゃんと国見の内面知ってくれてる人と付き合った方がいいんじゃない」
「そんなの居ないよ」
「クラスに一人くらいいるでしょ。高校入学して結構もう経ってるし」
「いない。女子とあんま喋んないし、俺」

 あまり喋らないのに告白されるのもすごいけどねと思ったけど、言ったらまた機嫌が悪くなりそうでやめておいた。どうせ俺の顔しか見てないんだろ、ってよく言ってるやつだ。

「じゃあ国見がちゃんと好きだと思える人に出会うまで、彼女作るのやめたら?」
 そう言うと、ぎゅうと眉間に皺を寄せた国見がこちらを見る。え、まさか地雷踏んだ?
「それをお前が言うわけ?」
「えええ?どういうこと?」
「それなら言わせてもらうけど、俺と付き合ってくれる?」

 唐突すぎて言葉に詰まる。付き合うって、それこそギャグ漫画みたいだけど、どこか出かけるのに付き合えってことだろうか。だってそうとしか考えられない。国見が私を好きなんてあり得ないことだ。今までクラスで一番可愛いと言われるような子としか付き合ってこなかったのだ。超がつくほど面食いだから私なんて眼中にないと思ってた。それだけじゃない。

「今まで散々ブスとか地味とか言ってきたくせに」

 そう言うと彼の動きが一瞬止まって、その後「もう言わない」とぼそりと言った。「なんなら可愛いと思ってる。これでいい?」
 そんな口説き文句どこで覚えてきたんだ。固まっている私をよそに、国見は他人事のように素知らぬ顔をして二つ目のチョコを口に放り込んだ。砂場では5歳くらいの女の子がキャアキャア笑い声を上げている。

「冗談だよバーカって言われるに100万ルピー」
「俺どんだけ信用ないの」
「ないでしょ」
「バーカは言うけど、冗談だよは言わない」
「じゃあ50万ルピー私のだね」
「相殺でゼロだよ」

 国見がまたこちらを見た。じっと見つめられて顔が熱くなってくる。腕が伸びてきて、私が握っているブランコの鎖ごと手を掴まれた。逃げられないようだ。

「俺の機嫌直してくれるんだよね。じゃあ付き合って」
「ちゃんと好きな人と付き合いなよってさっき言ったばっかじゃん」
「うん まだ分かんない?」

 いや、もうさすがに分かる。国見が私のこと好きなんて全然気づかなかった。今まで散々私を連れ回してたのってそういうことだったのか。
 動揺している私の顔が面白いのか国見がふっと笑う。ご機嫌うるわしいようで何よりです。

 家まで送ってくれた国見は「また明日も来るから」と言った。部活が終わった後に来るらしいから、たぶん夜になる。基本的に面倒くさがりな彼がそこまでして私に会いにくるのは変な感じだった。冗談だよバーカって言われるのだろうか。ダメだ私、展開についていけなさすぎて疑心暗鬼になってる。
「あと、これあげる」
 手渡されたものは、コンビニで私が美味しいよって言ったお菓子だった。あ、これ本気で愛されてるやつだ。

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