鬱陶しいテスト期間も終わって部室に向かっていると、研磨がスマートフォンをいじりながら歩いているのを視界の端に捉えた。あぶねーな。声をかけると視線をわずかに上げて「ああクロか」とうっすい反応が返ってくる。

「おいおい、歩きスマホすんなよ」
「……わかってるよ」

 渋々といった感じでスマートフォンを尻ポケットに閉まった研磨は、そのまま俺の横に並び部室に向かって歩き始める。テストの出来の感触を尋ねると、まあまあというどっち付かずな答えが返ってきた。
 夜中までゲームをやっているせいで授業中に居眠りをしてしまうことが多々あるのは知っている。だが今回もどうせクラス平均点を余裕で超える点数をとっているのだろう。なまえのノートを借りているから、と言いたいところだが、研磨の地頭の良さが1番大きい。たぶんノートが無くても容易にクラス平均点くらいはとる。それでもこの分かりづらい幼馴染がわざわざ彼女から借りるのは別の目的があるからだ。

「お前ほんと、めんどくせーよな」
「はあ?」

 ぽつんと呟いた言葉を聞き逃さなかったらしく、急に貶された研磨は腹立だしそうに睨みつけてくる。そりゃそうだ。百パー俺のせいだからな。何でもねえよと咄嗟に返答したが怪訝そうな表情は変わらず、何と言って誤魔化そうか考え始めたところで、研磨の視線がひょいと横に逸れた。思わずそちらの方に顔を向けると、渡り廊下の途中で楽しそうに談笑しているなまえの姿があった。談笑している相手はクラスメートだろうか。俺は見たことが無いが、背が高く、いかにもスポーツをやっていそうな男子だった。

「お、なまえだ。隣にいるやつ誰だ?」
「……2組の山田」
「てことは、なまえと同じクラスじゃねーか」
「そうだよ」

 ちらりと研磨を確認するともう視線は前に戻っていて、何でもないような顔をして歩いている。何でもないはずが無かった。なまえのことは誤魔化せても、俺の目は誤魔化せねえぞ。あの山田とかいう奴のことが気になって仕方がないんだろう。
 笑うたびに揺れるなまえのポニーテールを思い出す。分かりづらい研磨に比べて、なまえは随分と分かりやすかった。誕生日プレゼントかホワイトデーだかに研磨から貰ったヘアアクセサリーを彼女は律儀に毎日身につけている。

「研磨、あんま意地張んなよ。そのうち誰かに盗られるぞ」
「……なんの話?」
「分かってるだろ」

 部室のドアノブに手をかける瞬間に研磨の方を振り返ると目が合って、すぐに逸らされた。
 大丈夫だよ。そう答えた研磨の口角がわずかに上がっている。こいつ、分かってたけどやっぱ敵には回したくねえな。外堀を埋められまくっているなまえには流石に同情してしまう。



 何故だか視線を感じて体育館のほうを見ると、見覚えのある変わった髪型とプリン頭が歩いているのが見えた。私の方を見ているわけではなかったので自意識過剰だったなと人知れず恥ずかしくなる。一瞬の隙も見逃さず視線を辿った目の前のクラスメートは首をかしげた。

「あれ?知り合い?」
「幼なじ……えっと、気のせいだったみたい」

 ここでうっかり幼なじみだと漏らせば研磨の機嫌が悪くなりかねない。明らかに変な誤魔化し方だったのに、クラスメートの山田くんは「そっか」とだけ言って笑った。スポーツマンらしい、爽やかな笑顔だ。たしかサッカー部だと言っていた。不敵な笑みを浮かべることが多い幼なじみの二人とは対照的だなと思う。……特に研磨とは。

「じゃあそろそろ部活行ってくる。引き止めてごめんな」
「大丈夫。がんばってね」
「サンキュー!」

 手を振ると振り返してくれる。ここは研磨と一緒だなと思う。私もさっさとノートを提出したら、部活に行こう。
 間違えて古い方を持ってきていないか念のため確認しようと職員室の前でノートを開くと、1番後ろのページに猫の落書きがしてあった。見ているだけで脱力してしまうような間抜けな顔をしている。私が描いたものではない。とすれば、私がノートを貸した一人しかいない。

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