侑くんは昼休憩に入ると、よく私の教室に顔を出すようになった。他のクラスメートが勉強している時は、人気のない階段とかで一緒にお昼を食べた。たまには部活以外の人と喋って気分転換したいんやろなと思った。
 学校で勉強しない日は、わざわざ教室に来るだろうし申し訳ないと思ってその旨を連絡した。毎回、既読はつくけど返信は返ってこなかった。

 侑くんが1週間くらい教室に来ない日が続いた。そういえば最近は北にも大耳にも会わないし、部活で合宿でもやっているのかもしれない。

 夜、寝る前にスマートフォンを確認したら通知画面に侑くんからの連絡が表示されていた。週末の花火大会に行こうというもので、送り相手を間違えたんじゃないかなと思った。『誤爆しとるよ』と送ると即既読がついて『間違えてへんわ』と返信がきた。

 受験生なのに花火大会なんて行ってもいいんだろうか。たまたま会った友人に相談すると「そのくらいええやろ、私も彼氏と行くし」との答えが返ってきた。
「で、誰と行くん」



 久しぶりに会った侑くんはちょっと日焼けしていた。バレーは屋内なのに、やはり紫外線はおそろしい。

「久しぶりやな、俺に会えんくて寂しかった?」
「いや別に」
「なんや可愛くないな」
「侑くん。もうなんべんも言っとるけど私先輩やからな」

 たまには威厳を見せようと睨みつけると、侑くんは思ってもないくせに「おーコワ」と言った。微積の公式より、先輩の威厳の見せ方とか勉強したかった。
 辺りは人だらけでごった返している。酒に酔ったおっちゃんが怒鳴っている声も聞こえる。まだ花火始まってないのに早すぎる。
 とりあえず食べるものを調達しようと思って、屋台の並びを二人でぐるぐると歩いた。侑くんは図体がでかいから、人よけに便利だった。

「食いたいものあった?」
「うーん、焼きそばでええかな…」
「ならあっちやな」

 元来た道を戻ろうとしたところで、浴衣を着た女の子がこっちを見た。あっと驚いたような顔をして、「侑やん」と言った。

「私には行かんて言ったくせに」
「ごめんな、先約や」
「カノジョ?」
「いや姉ちゃん」

 侑くんのめちゃくちゃな嘘に思わず目を剥いた。女の子の誘いを断って姉と花火大会に行くなんてシスコンだと思われても仕方がない。そもそも宮兄弟に姉がいるとは聞いたことがない。いくらなんでもバレるに決まっている。
 私の頭のてっぺんから足下までじろじろ眺めた女の子は「ふーん」と言った。絶対信じていない表情だ。こういう時の女の勘は恐ろしく鋭いことを侑くんは知らないのだろうか。見たことがある顔だから、多分同じ高校だ。夏休み明けに学校中に私の名前が広まっていたらどうしよう。

 恐怖で固まっていると、侑くんは飄々と「また学校でな」とその子に手を振った。さっさと歩き出した彼に置いていかれぬよう、慌てて会釈をしてから追いかける。

「……侑くんの姉になった覚えはないねんけど」
「そんなんこっちから願い下げやわ」
「あーあ!9月から学校行けへん!」
「同じ高校って気づいとらんし大丈夫や」
「いや気づくやろ」
「私服やし髪型も違うし多分気づかん。俺やったら気づかん」

 焼きそば屋の列に並びながら「そんなに雰囲気違う?」と問うと侑くんは黙って頷いた。

「かわいい?」
「可愛くなくもない」
「もっとちゃんと褒めて」
「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい」
「もうええわ、ゲシュタルト崩壊する」

 焼きそばを買うと、今度はお好み焼き屋に並んだ。結構美味しそうで、私もお好み焼きにすればよかったとちょっと後悔した。あとで侑くんに一口もらおう。
 花火を見る場所を探しながら、あまりの人の多さに閉口した。おまけに暑すぎて息がつまりそうだ。侑くんは、視界が開けているからか人の多さはあまり気にしていなかったけど、首筋には汗がにじんでいた。

「なまえさん、人ごみでプチっと潰れてまいそうや」
「高みの見物でうらやましいわほんま」
「怒んなや」

 侑くんは「肩車したろか」とニヤニヤ笑っていたけど、丁重にお断りした。高い身長を活かして人が少なめの場所を見つけてくれて、そこでようやく腰を下ろすことができた。
 花火は思っていたよりすごかった。暑さと人混みにうんざりした瞬間もあったけど、久々に出かけていい気分転換になったと思う。明日も頑張ろと思えたし。

 帰り道も人混みだったのに、侑くんは上機嫌だった。途中でコンビニに寄ってアイスを食べた。私を花火大会に誘った理由は結局訊けなかった。

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