うちの男子バレー部は、今年もIHの全国出場が決まっている。『応援行きたいけどなあ』という友人のメッセージに『そうやなあ』と返す。受験生じゃなかったら絶対行ってた。今年の後輩たちも多分結構な人数が行くだろう。3年生でも、引退していない吹部とチア部は行くと言っていた。それだけ我が校では重大イベントなのだ。遠いけど、夏休みだし観光がてら行きたくなる気持ちは痛いほどわかる。

 模試の帰り道に、『男バレ準優勝や』と友人から連絡が入っていた。すごい。さすがテスト期間中も部活をやっていただけある。
 おめでとうと言っているクマのスタンプを北に送って、次の日の朝に『ありがとう』とだけ返信が来ていた。優勝できなかったのは悔しいだろうけど、主将としてここまでの結果を出せて、まあまあ心置きなく引退できるやろなと思った。

「なんで、俺にはおめでとうって言わへんの」

 教室で勉強していたら、侑くんがやってきて怒ったように言った。受験生の教室に乗り込むなんてすごい勇気だ。慌てて辺りを見渡すと、ちょうど教室で勉強していたのは私だけだった。

「会ったら言おうと思っとったよ」
「あっっっそ」

 机ごしにこちらを見下ろす侑くんに「おめでとう」と言うと、彼は舌打ちをした。年下なのに迫力があってちょっと怖い。
 今日の侑くんは機嫌が悪いみたいだ。一般生徒からしたら準優勝でも十分すごいけど、負けたのが相当こたえたのかもしれない。

「部活は?」
「昼休憩や。昼飯食った?」
「もうそんな時間か〜忘れとった」
「ちゃんと食え。しんでまうぞ」

 侑くんは隣の席にどかりと腰を下ろす。持っていた鞄から弁当箱を取り出して、机の上に開き始めた。えっここで食べるんや。
 私も今さらながら空腹を自覚して弁当箱を開く。今日は母が仕事だったから自分で作った。私のに比べて侑くんの弁当はだいぶ豪勢だ。育ち盛りの男子高校生の弁当を作る親御さんはほんまにすごい。

 弁当を食べながら、勉強の調子について訊かれて何個か質問に答えて、インハイのことを訊いたらぽつぽつと返事が返ってきた。
 空き教室では吹部が自主練をしているのだろう。ブォーという低音や、同じフレーズを何度も演奏する音が聞こえてくる。

「ピーヒャラうっさいな」
「口が悪い。別にうるさくないし大会で応援してもらっとるんやろ」

 さすがに罪悪感を感じたのか、侑くんは黙っておにぎりを咀嚼した。

「……なまえさんは、俺のこと応援しとった?」
「うん。行けんかったけど」
「北さんのことも?」
「当たり前や」

 そうやろなあと侑くんは独り言のように言う。舌打ちした時や治くんと喧嘩している時も威圧感はあるけれど、なによりも今みたいな何を考えているかわからない静かな瞬間が一番怖かった。

 再び部活に戻る侑くんを見送って、夕方になってから教室に北が入ってきた。ジャージを着ていたから、引退したのに引き継ぎとかあるんやろなと勝手にあれこれ推測する。
 北は私に気がつくと、席まで来て「朝からおったん?」と尋ねた。うなずく私に「なんや焦るなあ」と珍しく弱音のような言葉を吐く。

「引退したし、北なら余裕で受験に間に合うやろ」
「いや引退してへんよ。春高行く」
「え!ええ!?うそやろ!ほんまに?」
「先生はうるさいやろけどな」

 エラーよろしく「ほんまに?」を連発する私に、北は「何回言わすねん」とうんざりした表情を浮かべた。だって春高は1月だ。北だって受験があるのに、1月までみっちり部活だなんて担任教師じゃなくても気が遠くなりそうだった。

「どっちもちゃんとやるから大丈夫や」

 北の言葉に不安な気持ちが消え去っていく。彼がちゃんとすると言うなら本当にそうなのだと思う。というか私も人の心配をしている場合ではない。この前の模試の結果には未だにD判定と示されていて、愕然としたのは記憶に新しい。

「まあお互いがんばろ。しんどくなったら言ってな。アイスおごるくらいはする」
「しんどいのはなまえのほうやろ。一日中ひとりで勉強しとるもんな」
「ならアイスおごって」
「なんでそうなんねん」

 北が珍しくツッコミをした。大耳に言ったらびっくりするやろな。いや、でも部活だと北はツッコミしまくっているのかもしれない。主将の北は、きっと私の知らない顔をしている。

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