「あ、来た来た。これをこの机に並べてくれへん?」
「ほんまにやるんか」

 侑くんは驚いたように言った。後ろには治くんと、もう二人男の子が立っている。
 明日は北の誕生日サプライズをやるから手伝ってほしいと昨夜連絡を入れたら、『ほんまに言っとる?』と侑くんは半信半疑だった。誘ったのは侑くんだけなのに、追加で3人来たということは、面白半分で彼が声をかけたのだろう。

「こんな大量のお菓子どうしたん」
「さっき大耳と買ってきてん。並べるの手伝って」
「いやベタすぎるやろ」

 ベタなサプライズでも何だっていいのだ。せっかくの誕生日だというのに、テスト期間や部活やらで羽を伸ばせなかった北を少しでも祝えたらと思って大耳と企画した。北の机の上に、ポテチとよもぎ餅とリッツと…とにかく色々並べていく。
 宮兄弟以外の二人に視線をやると「スナです」「ギンジマです」と自己紹介をしてくれた。ちゃんと敬語使えるええ子たちやな。

「北さんとなまえさん仲良すぎてきもいわ」
「嫉妬すんなよツム」
「してへんわ!」

 やいやい言っている二年生組は放っておいてひたすら並べる。せっかく来たのに全然手伝ってくれる気配がない。
 北とは3年間同じクラスだったからそれなりに付き合いは長い。1年生の時はあまり話さなかったけど、2年生になって委員会をサボる侑くんの愚痴をこぼすようになってから仲良くなった。怖い人というイメージがあったのに、話してみたら意外と笑うからびっくりしたものだ。

「大耳さんは?」
「北を引き止めてくれとる」
「さいですか」

 そっとお菓子をポケットに仕舞おうとした治くんに「見えとるからな」と言うと、彼は「なまえさんってたまに北さんみたいなとこあるなあ」と悪びれる様子もなくお菓子を元の位置に戻した。スナくんは並べられたお菓子をパシャパシャとスマートフォンで撮っている。

 一通り並べ終わって息をつくと、「なんやお前ら大集合か!」と廊下の方から声がした。尾白くんが驚いたような顔をしてこちらを見ていてギョッとした。ほとんど喋ったことはないけど有名人だから一方的に知っている。

「いやいや男バレ大集合やん。居づらいわあ、帰る」
「企画者が何言うとんの」

 侑くんに腕を掴まれる。治くんは尾白くんに事の概要をかくかくしかじかと説明していた。大耳とひっそり二人でサプライズをやろうと思っていたがこれは誤算だった。侑くんを呼んだ時点でこうなりそうなことは予測しておくべきだったかもしれない。
 この人ら目立つし早いとこ終わらせてしまおうと思い、『準備できた』と大耳に連絡する。読心術を心得ているんじゃないかと思うほど鋭い北を引き止めてくれた彼には拍手を送りたい。

 どきどきしながら待っていると、数分後に北が教室に入ってきた。後ろからげんなりした様子の大耳も入ってくる。きっと色々詰め寄られてなんとか時間稼ぎをしてくれたに違いなかった。あとで盛大に労ってあげよう。

「誕生日おめでと」

 打ち合わせしていなかったので、各々がバラバラと祝いの言葉を述べる。目を見開いた北は「そういうことやったんか」とつぶやくように言った。正直言うともっと驚いてほしかったけど、まあ北やしなとも思う。

「えらい大人数やな」
「成り行きでこうなってもた」
「こういうのガラやないと思とったけど、案外嬉しいもんやな」
「!」

 喜んでくれているのが分かって思わずにこにこすると北もちょっと笑った。

「それにしてもようけお菓子あるなあ。ばあちゃんと食っても食いきれんわ」
「サプライズやからな」
「お前ら持って帰ってええで」
「ほんまですか!アザース!」
「ほんで早う部活の準備せえよ」

 いそいそと食べたいお菓子に手を伸ばす二年生組を眺めながら、北はありがとなと礼を述べた。大耳の努力は報われたようで、彼も嬉しそうにしている。お菓子を取り合って喧嘩し始めた宮兄弟に、尾白くんが「お前ら園児か!」とツッコミを入れていた。部活仲間ってええなあ。なんだかうらやましい。

 ぞろぞろと男バレ部員たちが部活に向かう中、侑くんが近寄ってきて私の手にチロルチョコを握らせた。これさっき北にあげたやつなのに、なに勝手に我が物顔で私に渡してるんだか。

「俺もいつかサプライズしたるからな」
「言ったらサプライズにならんよ」
「忘れた頃にやんねん。楽しみにしとって」

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