「チョコ持っとる?」
 昇降口でたまたま会った治くんに手を振ると、開口一番にそう尋ねられた。カバンを開いて、2日ほど前に買ったコンビニのチョコレートを取り出す。自分のおやつ用で買ったものだ。
「こんなんで良かったら」
「何でもええわ。ください」
 バレンタインで人にあげるために買ったものではないのでとても申し訳ない。包装すらされていない小さなチョコレートを大きな手のひらの上に落とす。治くんはそれを口に放り込むと、淡々と礼を述べた。
「私なんかに貰わんくてもぎょうさん貰っとるやろ」
「ちゃうねん。なまえさんにチョコを貰ったという既成事実が大事なんや」
「もーちょい詳しく」
「今ツムと喧嘩中や」
「ほう?」
「俺がなまえさんにチョコ貰ったらアイツ嫌がるやろ」
「もう高校生なんやから仲良くして…」
 ツムに報告してくるわと恐ろしいことを言うので慌てて腕を掴んで引き止める。治くんって穏やかそうなのに、意外と好戦的なのはさすが兄弟って感じだ。
「もう一個チョコあげるから、侑くんとは仲直りしいや」
「買収か。なまえさんやるな」
 差し出された手のひらにもう一つチョコレートを落とす。こんなチョコ一個で買収される治くんチョロすぎる。ほっと一息ついたところで「何チョコ貰っとんねんサムー!」と大声が聞こえてきた。誰の声なのか確認しなくてもわかる。私の買収は無意味だったようだ。

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