愛を叫んでいる

完璧に売り言葉に買い言葉だった。任務も終わり藤の家で休息をとっている時に、善逸はねずこちゃんの話ばかりをしていた。
上目遣いで可愛い、心なしか良い匂いがするし、何よりも炭治郎と同じく心地の良い優しい音がする。今度あったら花冠を一緒に作る約束をしているのだと言って、可愛い、と何度も連呼しながら気持ち悪いくらいに顔をデレデレとさせている。
む、と眉間に皺が寄った。
確かにねずこちゃんは可愛い。鬼だけれど、人は襲わないし優しい子だ。この前、たまたま蝶屋敷で会った時にはパタパタと可愛らしい音を立て私に抱きついて出迎えてくれたし、落ち込んでいる時は小さな手で私の頭を撫でてくれた。

ねずこちゃんが可愛い事なんて良く知っている。私とは真逆だ。私はどちらかと言うと気は強い方だし、おしとやかで穏やかな女性とは程遠い。そんな事分かってる。分かってるけど。私の目の前でわざわざ言わなくて良いじゃない。可愛い、なんて私には言ってくれた事のないのに。寂しい、悲しい、と思うのと同時に嫉妬した。 惨めな気持ちになる。善逸の馬鹿。

「そうだね。ねずこちゃんは可愛いよね。」
「でしょでしょ!早く会いたいよおおお!」
「私も早く炭治郎に会いたいな。」
「、え。」
「だって、強いし頼りになるし、何よりも炭治郎優しくて格好良いから。」

善逸ににっこり、と当て付けのように笑みを張り付けて言えば、空気がピリと張り詰めたのが分かった。

「ねえ、それ本気で言ってる?」
「うん。だって事実じゃない。」

いつもより少しだけ低い声を出した善逸からプイ、と横を背ける。完璧な八つ当たりだ。でも、我慢出来なかった。自分に向けて言ってくれた事のないような言葉を、他の子に惜しみなく言っている所を聞かないといけないなんて。嫌だった。
そこで可愛らしく、私には言ってくれないの?なんて言えれば良かったのかもしれないけど、私はそこまで器用じゃなかった。
炭治郎を引き合いに出したのは申し訳なかったけど。

「ふーん。嫉妬してるんだ。」

善逸の言葉にカ、と顔に血が上った。真っ赤になったのが分かる。図星だったのだ。
そうだ、善逸は耳が良い。私から聞こえる音で何を考えているかなんて分かる筈だ。分かるのに、あえて言っていたのか。この男は。

「ばか!善逸のばか!」

あまりの恥ずかしさと悔しさで、そう暴言を投げ捨てて立ち上がりその場を離れようとした。頭を冷やそう。こんなのやってられるか。
しかし、善逸に腕を掴まれぐるりと視界が反転した。
目の前には目と鼻の先にある善逸の顔と、天井。

「な、な、な、…!」
「本当は何て言いたかったのさ。」

私を押し倒し、少し楽しげに、意地悪そうに笑みを浮かべながら覆いかぶさっている善逸に見下ろされ酷く狼狽した。こんなの、知らない。心臓が今までにないくらいに激しく暴れる。逃げようともがくも、押さえつけられた体はウンともスンとも言わない。
やだ、やだやだやだ。
全部、全部、分かっている癖に。
意地悪だ。
恥ずかしさのあまり顔だけでも背けようとしたら、顎を掴まれ無理やり視線を合わせられる。きゅ、と口に力を入れた。すると、ゆっくりと動いた彼の口元。

「可愛い。」

うっそり、と甘さを含んだその言葉の破壊力。
たまらない。
ワナワナと震える唇は、当分まともな言葉を発せそうにない。もう、もうもうもう!
これだから、この男は。

それでも、好きなのだ。
泣き虫だけど優しくて、友達思いで、誰よりも人の痛みを分かる人で、強い人。

善逸は嬉しそうに、とびきりの笑顔を浮かべた。

ああ。その笑顔も大好きなのだ。

近づいてきた唇。重ねられた手の平は強く握られている。
あと少しで、触れる。

その瞬間。
顔を上げて、彼の鼻先にがぶりと、噛み付いてやった。
それと、これとは別の話だ。
してやったり、今度は私が満足気に笑った。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -