甘い香り

私はとにかく緊張していた。初めて鬼の首を切る時よりも断然に。手汗は凄いし、目もキョロキョロあちこち忙しなく動いてしまうし、あきらかに挙動不審だ。炭治郎は鼻が良いので、きっと私がこんな状態になっているのも気付いているだろう。その所為で炭治郎も何だかぎこちない。

今日は珍しく炭治郎と2人での任務だった。いつもいる賑やかな同期の2人は別任務である。
無事に鬼を狩り終え、藤の家へ休息しに来たのは良いもののいつもと同じように部屋に着いて、お風呂を借りてほくほくとしながら既に敷かれている布団に入ろうと思った時に、はた、と気付いてしまった。
2人っきりなのだ。いや、厳密的には違うのだけれど今日の闘いで疲れたねずこちゃんは寝てしまって箱の中から出てこない。

炭治郎と恋仲という関係になってから、こんな風に2人きりの部屋で寝るという事が初めてであった。任務も1人か、同期の4人での行動が多かったのだ。
意識するなと言う方が無理な話である。

「沙月、一旦落ち着こう。」
「ご、ごご、ごめん。」

思わず真っ赤になりどもりながら返事をすると炭治郎も少しだけを頬を赤くして鼻先をかいた。

「その、何もしないから。大丈夫だから、な?」
「そ、そうだ、よね!」

…少しだけ残念。なんて思ってしまってまたまた顔を赤くする。わ、わたし、何で残念なんて思ってるんだろう。その前に、こんな所で何かある方がだめだ。藤の家だし、任務終わりだし、そ、そんな事考えてちゃダメダメ。
プルプルと顔を横に振り、炭治郎の方を見れば顔を真っ赤にしていた。
あ、あれ?

…あっ。
に、匂いに出てたんだ。

「あ、あの!ちが…ちが…くはないんだけど、その…!」

あわあわと慌てて弁解しようにも上手く言葉が紡げない。ああ、もう私のばかばか。顔の熱は引かなそうだし、恥ずかさのあまり少しだけ目に涙が浮かび、視界が歪む。

すると、膝に手を置き浴衣をぎゅうと握っていた手の上に炭治郎の手が上から重ねられ反対側の手は頬に添えられ、ちゅと口を吸われた。

「ふぇ…?」

一瞬の事だったけれど、微かに香った石鹸の香りと間近にあるりんごのように赤くした炭治郎の顔で幻ではなかったのだと実感する。
口を金魚のようにパクパクした。

「俺も…したくない訳じゃないんだ。」

少し照れたように笑う炭治郎にキュンと心を鷲掴みにされる。ああ。もう本当にこの人が大好きだと思った。

「あ、あの、じゃあ抱きしめて…欲しいな。」

ぐいと少し強引に腕を引かれ、自分よりも大きな体に抱きすくめられる。
私もゆっくり背中に手を回し、首元に擦り寄るように顔を押し付け、口元を緩めた。


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