いつまでも貴方の隣に

半年に一回しか行われない柱合会議にお師匠が向かわれて随分な時間が経っていた。もうすぐ帰って来られる頃合いだろう。
今日の鍛錬も終わり夕飯の用意でもしようかと思い道場から出るとポツポツと雨が振り出していた。これは大変だ。慌てて干していた洗濯物を取り込む。
まだ何とか濡れずには済んだ衣服を抱え安堵の溜息を吐いた。日中あれだけ天気が良かったので夕立ちだろうか。
中々止みそうにない。雨粒が地面に叩きつけられる音が1人しかいない屋敷の中、やけに大きく響いて聞こえた。
そういえば、義勇さんは傘を持って行っていただろうか。はて?と首を傾げる。
確か行く前はとても天気が良く快晴だったのを思い出す。持って行ってないな。
これも大変だ。
きっとあの方の事だから気にせずに濡れて帰って来るのだろうけど。

傘を二本持って慌てて屋敷を出た。

バシャバシャと水が跳ね足元が濡れるのを気にせず先を急ぐ。流石に隠の方がいないので親方様のお屋敷まで迎えに行く事は出来ないけれど途中からでも傘があるのとないのでは全然違う筈だ。

遠くの方に見慣れた後ろ姿が立っているのに気がつく。義勇さんだけでなく他の柱の方々もいらっしゃるみたいだ。

「義勇さん!」

そう声をかければゆっくり振り向き少しだけ驚いたように目が動いたがすぐにいつも通りの顔に戻った。本当に表情が乏しい。少し笑いそうになるのを堪え小走りになり近づいた。

「どうした。」
「雨が降って来たので持ってきました。傘持って行ってなかったでしょう。」

自分にさしていた傘を義勇さんの方に傾ける。義勇さんが何か話そうと口を開きかけた時だった。

「沙月久しいな!元気にしていたか?」

声のかけられた方に振り向けば、炎柱の煉獄様がこちらに向かって来ていた。
だいぶ久しぶりの再会だった。何かとご縁があり任務が一緒だったり、有り難い事に稽古をつけていただいたりと気にかけてもらっている。

「はい。煉獄様もおかわりないようで。」

あら。煉獄様も傘を持っていらしてない。まあ、しょうがない。行きしにあれだけ晴れていれば傘が必要になるなどと思わないだろう。

「煉獄様も傘がないのですね。」
「よもやよもやだ!雨が急に降ってきてな!」
「良かったら、これ使って下さい。」

義勇さんにと持って来た傘を渡した。

「いや!それは悪い!」
「大丈夫ですよ。義勇さんと同じ傘に入れば良い話なので。帰り道は最後まで一緒ですし。」

雨脚も強くなってきている。いくら柱と言えども風邪引く時は引くのだから、無茶をしないでほしい。困ったように笑いながら手渡せば渋々受け取ってくれた。

「すまん!有り難く借りるとしよう!また今度お礼でもさせてくれ。」
「いえいえ!お気になさらず。」
「いや!俺がしたいんだ!良かったら君の好きな団子屋でも行こう。」
「まあ!よろしいんですか?」

団子という単語に思わず目を輝かせる。何度か煉獄様のお屋敷で稽古をつけ下さった時にお団子をご馳走になったのを思い出す。あれは本当に絶品だった。程よい甘さのみたらしに香ばしく焼かれた団子。
おっと、危ない。よだれが。

「もちろんだ!時間がある時を教えてくれ!」
「はい!ありが「帰るぞ。」

ぐいっと手を引かれた。私が手に持っていた傘を取り上げて早足に歩き出す義勇さんにズルズルと引き摺られるようにその場を離れる。

「す、すいません!ありがとうございました。また文でも出しますね!」

そう言えばブンブンと手を振って下さった煉獄様に頭を下げた。
足がもつれそうになりながら、慌てて義勇さんの背中を追う。繋がれた手は離されずそのままだ。いきなり急いでどうしたのだろう。何か急な用事でも思い出したのだろうか。

「義勇さん。急いでどうされたんですか?」
「…。」

この下りはいつもの事なので気にしない。義勇さんが無視をしている訳ではない事を重々承知しているからだ。この方は自分の中であれやこれやと考えて、考えるくせに2割程度の事しか口に出されない。きっと言葉にするのが苦手なのだろう。
本当に不器用な方だと思った。
日が沈み暗くなり始めた道を2人でひたすら無言で歩く。

「…お前は…俺の継子だ。」

目をパチクリする。隣を歩いている義勇さんを思わず見た。しかし表情はいつもと変わらずである。
何とも難解だ。この短い言葉の中に一体義勇さんはどんな気持ちと意味を込めたのか。あれだけだんまりになり考えたあげく、出てきた言葉がこれである。
うーん。義勇さんが欲しい言葉かは分からないが自分が思った事を口にした。

「そんなこと当たり前じゃないですか。私は鬼が居なくなるまで貴方の隣にいますよ。」

キュッと握っている手に力を入れれば、自分よりも大きな手も同じようにして握り返してくれた。

叶うのなら、鬼が居なくなってからでも、私は貴方の隣に居たい。
とは口に出せなかったけど、微かに当たる肩先の温もりを感じ頬を緩めた。

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