彼の友人「そういえば、あの子とは順調なのか?」「あ〜、まぁな」 大事な顧客との会食後、運転中のレンが口を開く。ここの所忙しくモカとはすれ違いの日々が続いている為、週末くらいはモカとゆっくりしたいとジンは考えていた。「なぁ、俺にも見せてくれよ」「あァ?なんでだよ」「全く……、若さんがいちゃついてる間、誰が組仕切ってたと思ってるんだ?」 モカが学校に行くまでの間、組の事は全てレンに任せっきりであったのは事実。しかしこのレンという男、穴があれば女だけではなく男だって抱く無節操極まりない奴である。勿論それ以外は本当に好青年で、仕事もそつなくこなしてくれる。組の頭として責任を背負っているジンが、こうして唯一頼れる相手でもある。「見るだけだって、本当に」「本当かよ……」 彼の事を信用はしている。しかし本当に彼は性に関して見境がないのだ。もしかしたらモカにも手を出してしまうのではという懸念も、少なからず抱いてしまう。しかし世話になっているのは事実であるし、今後モカが彼の事を知らないとなると色々面倒ではあった。「わかったよ、週末連れていく」「おお、もみじが張り切ってご馳走作るだろうよ」 そんな会話をレンとしたのが二日前。そして今日は土曜日。本当はモカの身体を一日中堪能するつもりだったのに、仕方なく昼頃に切り上げ二人揃ってシャワーを浴びた。友人の所に行くのだからと、適当にそこら辺にあったワイシャツとジーパンを履いて支度を済ませたジンが、モカの部屋のドアを開ける。紺色の短パンに黒いニーハイソックス。そうして真っ白なシャツの上に水色のカーディガンを着たモカは、ちいさなポシェットの紐を握りながら、ジンに振り返ってもじもじと顔色を伺った。「準備できたか?」「うん、あの……似合う……?」「あぁ、よく似合ってるぜ」 モカの来ている服は全てジンが選んだものだ。モカは学校から帰宅してもほぼセーラー服のまま家で過ごしている為、こうして私服を着た姿を見るのは新鮮な気がする。車に乗り込んだ後にふと、ジンが小さく呟いた。「まぁ、俺はあんまり会わせたくねーけどなァ」「どうして?」 その問いにジンは返事をしなかった。ただジンは、モカを何処にも行かせたくないのだ。誰にも見せず、部屋にずっと閉じ込めておきたい。仮に力付くでモカを閉じ込めたとしても、この様子だとモカは喜んでそれを受け入れるであろう。しかしそれでは、今までのモカの努力を潰してしまう事にもなる。せめて学校を卒業するまでは、モカの自由にさせてやりたかった。「……そういえば、レンさんのお家って近いの?」「あぁ、つっても、隣町だけどな」 レンの家は小ぢんまりとした二階建てのアパートの一室である。階段を上って一番隅の部屋のドアを開ければ、出てきたのはモカの見覚えのある人物。檸檬色の髪のエプロンをつけた少年は、モカを見るなり笑顔で出迎えをしてくれた。「モカさんいらっしゃい〜」「あれ! もみじ先輩!?」「そう、訳あってレンさんのトコに居候してるんすよ〜」「へぇ……!」「ささ、立ち話もなんですし入って入って」 もみじに手を引かれ、モカは部屋の中へと案内される。リビングに入ってすぐに目に入ったのは、フローリングに敷かれたカーペットの上に置かれたおおきなこたつテーブルと、周りに並べられた座布団。そうしてテレビと向かい合わせに座っていたレンが、モカに挨拶をする。「いらっしゃい」「さあさあ、座って座って」「は、はい」「ジンの所よりかは狭いけどな」 奥側へと案内され、レンと斜め向かいの座布団に座るモカ。台所からはなんだか良い匂いがして、思わずお腹を抑えてしまう。モカの隣に座ろうとしたジンが、突然ポケットで震え出した携帯を取り出す。そうして液晶モニターに映った名前を見て、顔をしかめた。「あー……、ちょっと出てくる」 奥の部屋に向かいベランダへと出ていくジン。不安げにジンの向かった方向を眺めているモカの様子を見て、レンが口を開く。「どうせ仕事の電話だろう」「そっか……」 内容によっては長引いてしまうかもしれない。しかしこれはレンにとっては好都合であった。あのジンを夢中にしているモカという少女を、じっくりと観察できる。高校生にしては随分と小さくまるで小学生のような身長の少女は、なるほどジン好みではあるかもしれない。ジンの昔の彼女はモカよりかは大きかったが、それでも随分と小さかった。もしかしたら本当にジンはロリコンなのかもしれないと、レンは笑いそうになるのを堪えつつテーブルに置いてある飲みかけの缶チューハイを口にした。「おっ、そろそろ出来ましたかね〜、俺はまた台所に籠ります!」 台所からオーブンの音が響く。それを聞いたもみじが、早足で長い暖簾の掛かった台所へと入っていった。そうして部屋に残ったのは、レンとモカの二人だけ。なんだかモカは落ち着かず、正座のまま俯いた。「(早くジン、戻ってこないかな……)」「なぁ」「う、あ、はいっ」 突然声を掛けられて、モカは思わず上ずった声で返事をしてしまった。レンは缶チューハイをまたテーブルに置いて、モカに向き直る。「ふたなりってほんとか?」「う、うん」「見せてくれよ」「ええ、で、でも……」「大丈夫、何にもしない」 モカは考える。ジンの友人であるなら変な事はしないであろう。気味悪がられる事もないかもしれない。けれども自ら見せるのはとても恥ずかしい。モカは恐る恐る膝立ちになり、短パンの金具とチャックを外してパンツをずらしていく。太ももまで下ろしたところで、モカはシャツを両手で捲り上げた。「へぇ……、玉はないのか」「だ、だって、精子でないし……」「ふぅん」「ひゃっ……!」 まじまじとモカのソコを見ていたレンが、徐に男性器を持ち上げる。その様子は本当に好奇心で触っている様だ。しかし元々敏感なソコを指で摘ままれ、モカはだんだんと変な気持ちになってくる。「な、なんにもしないって、いったっ……」「ちょっと触ってるだけだろ?」「んん、っ、いや、いやぁ……」 柔らかいままのモカの男性器をふにふにと二本の指で触り続けるレン。甘い声が出そうになるのを、モカはたくしあげたシャツで口を抑え必死で堪えていた。ぴくぴくと太ももが揺れて、トロリと先走りが先端から溢れる。そうしてようやっと電話が終わって戻ってきたジンが、その光景を見てしまえばもう誤解するのは明らかであった。「……テメェ、何してんだァ?」「あー……、っと、これは、だな」 レンの身体をモカから引き離すように突き飛ばし、そのまま胸ぐらを持ち上げて睨み付ける。そうされてもレンがあまり動じないのは、やはり色々な意味で馴れているのであろう。「あれほど手は出さないって言ってたよなァ!?」「いや、本当に見てただけっつーか……」「テメェ……」 完全に頭に血が上っているジン。むしろモカに手を出されただけでこんなにも怒りを露にする物なのかと、レンは少し感心してしまった。「まって、ジン、やめてよぉ!」「あァ!?テメーは黙ってろ!」「ぅあっ……!」 腕にしがみついてくるモカを振りほどく様に払った手が、モカの頬に当たってしまった。そのまま後ろに倒れ込んでいくモカが妙にスローに見えて、ジンは咄嗟にモカの腕を掴もうとしたがもう遅かった。ゴツンと鈍い大きな音が響く。後頭部をテーブルに強打したモカが、ゆっくりと起き上がる。そうして頭を抑えながらカーペットの上に突っ伏した。「い、いたい……」「モカ! おい、大丈夫か」「だいじょ……ぅ……っ、いたい……」 血も出ていないし、外傷は無い。しかしモカの脳に衝撃は禁物だ。見てもらうなら早い方がいいだろう。両手で頭を抑えているモカを抱えて、ジンはレンを睨み付ける。「確か近くに病院あっただろ」「あ、あぁ……」「電話しとけ、走って行くから」「えっ!? ジンさん!? 何があったんすか!?」 あわてて台所から出てきたもみじが、モカを抱え出ていくジンを見て驚く。嗚呼やらかしてしまったと、レンは今更気が付いた。ジンは本当にモカの事が大切なのであろう。自分の行動は軽率な行為だったと、レンは端末を取り出しながらただただ後悔の念に駆られた。*「対したことはないですよ、ただ、衝撃が少しキツすぎた様で、これから先後遺症が悪化するかもしれません」「例えば……?」「例えば、ですか、そうですね……、酷い頭痛で起き上がれなくなったり、突然痛みが来たり、とかですかね」 白いシーツの上に寝ているモカの頬には大きな湿布。そんなに力強く振り払った記憶はないが、当たった衝撃で大きな痣が出来ていた。モカの顔にだけは絶対に傷をつけないと決めていたのに。真っ白な頬は、ジンが触れるだけで林檎の様に赤になる。その様子がジンは好きだった。「鎮痛剤も多めに出しておきますし、暫くすれば目は覚ますでしょう、お兄さんも、喧嘩は程々にしてくださいよ?」「……」「では、お大事に」 そう言って出ていった医者と入れ替わる様に病室に入ってくるレン。そんなレンに何も言わず、ただ無言でモカの頬を撫でているジンに対し、レンはゆっくりと口を開く。「まさかあんなに怒るなんて思わなかったんだよ」「……そうかよ」「本当ただの興味本意っていうか、悪かった」 あの少女に対し少しちょっかいを出しただけで、周りが見えなくなるほどに怒りをぶつけてきたジンを見て、レンは正直驚いたのだ。「まぁ、ふたなりってきいたら、見たくなるよな、テメーならな」「良く分かってらっしゃる」「何年付き合ってると思ってんだ」「それもそうか」 レンが笑う。思えばジンとはもう十年以上の付き合いだ。学生の頃に出会ってから二人はずっと親友だった。だからモカに対してのジンの異常な執着心も、レンは今回の事で理解したつもりだ。「今後モカには手を出さない、約束するよ」「あぁ……」「まあ、なんだ、あれだな」「あァ?」「あの組一筋だった若さんが、あんな小さな子にどっぷりなんてな」「……俺も、自分で驚きだぜ」「まあ、お詫びとしてまた暫くの間、モカと一緒に居てやれよ」 そう言いながら、レンは病室から出ていく。眠っているモカの頭を撫でながら、自分は随分とこの少女に夢中らしいと、ジンは思わず嘲笑った。20180831
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