海月

「まあ、これぐらいか」

 ジンの車のトランクルームに山盛りになった紙袋は、全てモカの物だ。下着は勿論のこと、その中のほとんどは主に洋服である。ジンはモカに似合う服を、様々なブランド店で見繕った。一体どれだけのお金を使ったのかモカは考えたくなかったが、ジンにとってはこんなものは端金らしい。

「ジン、なんか、いろいろありがと……」
「テメーはもう俺のモンなんだから、世話をするのは当たり前だろ」
「うん……、でも、うれしい……」
「ほら、帰るぞ」

 そう言われて車に乗り込もうとしたモカは、ふと近くの雑貨屋に視線を奪われた。ショーケースに飾られている淡い水色の大きなぬいぐるみは、モカの一番好きな物。

「どうした?」
「っ、なんでも、ない……」

 慌てて助手席に乗ろうとするモカの様子を見て、ジンはピンときた。モカのスクールバックに付いていたストラップ。ハンカチの柄。そして雑貨屋のショーケース。それらは全て同じもので。

「くらげ、すきなのか」
「うん……、すき」
「待ってろ」
「えっ、あ……」

 雑貨屋に入っていくジンを、慌てて追いかけようとするモカ。しかしキーの付いた車の側を離れるわけにもいかず、モカはた
だジンの後ろ姿を見守る。エプロンをつけた店員のお姉さんが、丁寧にショーケースから取り出したクラゲのぬいぐるみを袋に入れる。そうして出てきたジンは、モカにその袋を手渡した。

「ほらよ、プレゼントだ」
「!!」

 丸いフォルムに四つの足が付いたソレ。モカは大事そうに袋を抱き締めてから、ジンを見上げる。

「じ、じん、あの、ありがと……」
「つーか、なんでクラゲが好きなんだ?」

 運転席に座ったジンが呟く。ゆるく発進する車に揺られながら、モカは再び嬉しそうにぬいぐるみの入った袋を抱き直してゆっくりと口を開いた。

「くらげさんにはね、脳味噌がないんだって、だからなにも考えられずに、ただふわふわしてるだけなの。だから僕も、くらげさんみたいになにも考えられずに、海の中でふわふわしていたいなって……。逃げてきたけど、それって、結局はひとりぼっちのままじゃないのかって。……本当はずっと、くらげさんになろうかなって、思ってた、けど……」

 モカが、ジンの顔を見つめる。その視線は確かに熱を含んでおり、蕩けていた。

「ジンが、僕のこと見つけてくれた、今はくらげさんになりたくないけど、くらげさんは大好き」

 モカはとても我慢強い。それは今までの彼女の経験からして分かりきっている。けれども、そんなモカにも弱い部分はあるのだ。今まで何回モカは一人で泣いたのであろうか。両親に愛されず、ずっとひとりぼっち。そんな孤独で強く、そして誰よりも脆い小さな少女に、ジンは惹かれたのだ。

「このぬいぐるみ、宝物にするね」
「……あぁ」

 モカのキツく綴じられている小さな口は緩んでいた。よほど嬉しかったのであろう。そんなモカを横目で見ながら、あの表情をもっと自分の手で変えてみたいと、ジンは駐車場へとハンドルを切りながら思った。





 帰宅後お風呂にゆっくりと浸かったモカは、買って貰ったばかりのパステルブルーのワンピースを着て、髪の毛をタオルで拭きながらバスルームを出る。ジンはモカよりも先にシャワーを済ませており、ソファーに座って煙草をくわえていた。

「モカ」

 手招きをされ、隣に座らされる。ジンは煙草を灰皿に押し付け火を消すと、そのままモカの髪の毛の上にあるタオルを奪った。そうして、優しく浅葱色を拭いていく。傷口は塞がっているが、それでもジンはそこに触れると傷つけないようにとそっと拭く。その手つきがとても心地よくて、モカは自然と目を瞑って彼に身を任せた。

「昨日と今日で、疲れただろ」
「うん……、ぁ……」

 タオルを取られて、目を開ければそこにはジンの整った顔。そのまま近付いてきて、気が付いたときには唇を奪われていた。甘いラズベリーがほんのりと香って、モカは自然とジンのシャツを握り締める。音をたてて舌を吸われる度に全身にゾクゾクとした物が走って、思考が溶かされていく。

「ふぁっ……!んん……、んぅぅ……!?」

 突然下腹部に痛みを感じて、モカは思わず逃げようと腰を引こうとする。けれどもジンの手がしっかりとモカを掴んでいて逃げられない。痛みと圧迫感の正体は紛れもなくジンで、きつく握られた拳がモカの腹部にぐりぐりと捩じ込まれていた。

「ん、ぅう……、う、ぁ……っ」

 痛いはずなのにお腹の奥底からじわじわと込みあげてくる快楽。こんな感覚を、モカは知らない。

「ふ、……っぐ……、ぅ」

 モカは自分の身体が自分のものではない様な感覚がした。嗚呼、もうこの身体は、ジンのモノなのか。そう考えると自然とモカは納得がいった。離れていくジンの唇と自分の唇の間に出来た糸は、直ぐに切れてなくなってしまった。なんだかとても切なくなって、モカはジンにすがりつく。

「ぁ……っ……、も、もっと……」
「あァ?」
「もっと、ぼくに、さわって……」

 ジンに触れられると気持ちがいい。例えそれが痛みだとしても。その言葉を聞いたジンが、不敵に笑ってモカの白い喉に牙を立てた。血の滲むくらいに噛まれて、背筋がぞくぞくする。

「なんだ、テメードMかァ?」
「わ、かんないっ……けど……、きもちいい……っ」

 いつの間にか、ジンの拳は離れていた。けれども下腹部はまだジクジクと痛み、その余韻もモカにはとても心地良い。モカをそのままソファーに倒して、ジンはゆっくりとワンピースを捲り上げる。

「えっち、するの……?」
「シてほしいか?」
「う、ん……、でも、僕……」
「人と違うんだろ」
「! どうして……」
「知ってるの、ってかァ? 当たり前だろ、テメーの事は、なんでも知ってる、なんでもだ」

 ジンの藍色を見た途端、ゾクリと背筋をかけ上がっていく寒気。笑うジンの事を、モカは初めて怖いと思った。彼は一体、自分の事をどれだけ知っているのだろうか……。

「俺が怖いか」
「……っ、けど、それだけジンは、僕の事、すき、って、事……?」
「好き? そうじゃねぇなァ……」

 ジンが下腹部を指でなぞるのを、モカは目で追う。そこにはうっすらと赤い痣がついていた。ジンに付けられた、ジンのモノだという印。ジンが笑う。その表情はとてもうっとりとしていた。

「あぁ、綺麗についてるな……」
「ふぁ……っ」
「俺はな、ずっとテメーの事が欲しかったんだ、好きとか、愛してるだとか、そう言う事じゃねェ、テメーの全てを、モノにしたいだけなんだよ」
「あ……っ、ん……!」

 そのまま、ジンはモカの真っ白なショーツに指をかける。じんわりと染みになっているソコは、モカが確かに今までの暴行で快楽を感じていた証拠だ。

「まァ、言うなればテメーは俺のペット、ってとこだなァ」
「ペット……」

 モカには愛が分からない。父親と母親が愛し合っている事も、道行くカップルの事も、自分にはどういう感情で一緒にいるのかさっぱり検討もつかなかった。あの日病院で、確かにジンはモカを愛してくれると言っていた。ペットでも、ジンの愛を受け入れる事が出来るならモカはどうでも良かった。

「う、んっ、ぼく、ジンのペットになるっ……!」
「なら、愛してやるよ……、骨の髄までな」

 ショーツが両足からはずされるのを、モカはどこかぼんやりと眺めていた。嗚呼、見られてしまう。おぞましい自分の身体が。モカにとって一番みられたくない場所に、ジンはゆっくりと指を這わせていく。毛の生えていないソコは、モカの年齢と比べればずいぶんと幼い。小さな男性器の先は皮をかぶっており、淡いピンクの亀頭はほんのりと濡れている。その男性器を指で持ち上げれば、露になるのはぴっちりと閉じられた女性器。その様子は一目で使った事が無いと分かる。

「自分でも触ったことないのか」
「う、っん、なんか、きもちわるくて……っ、ひぁ、あ」

 モカの幼い男性器を、ジンはゆったりと二本の指でしごいていく。ピクピクと動いて先走りが伝っていくが、少し首をもたげるだけでしっかりと芯を持つことはない。モカは指を動かす度に甘ったるい声を漏らし、女性器からもとろとろと蜜が溢れていく。その蜜を指に絡ませて、ジンはモカの閉じた女性器へと指を侵入させていく。

「あ、い……いたい……」
「いたい? えっろい顔してんぜ?」
「ひあぁ!」

 ジンが強引に指を捩じ込む。無理矢理中を掻き回されて、圧迫感と痛みに思わず涙が溢れた。けれどもじわじわと奥底から込み上げてくる気持ち良さを、モカは否定することができない。ジンに触れられている。それだけでモカは嬉しかった。

「血、出てきたな」
「ぇ……っ、あ、ぁ……」
「綺麗だぜ、モカ」
「ほ、ほんと……? ぼく、きれい……?」
「あぁ」
「え、えへへ、そんなの、はじめて、いわれたっ、うれしいっ、じんっ、じんすきぃっ」

 自分の身体が綺麗だなんて……。モカは初めて自分を認められた気がした。目の前が涙で滲んで、どんどんと溢れて止まらない。泣きじゃくるモカの涙を、ジンは慰める様に舐め取っていく。キツく抱き締められて、モカは嬉しさで胸がいっぱいになる。

「入れるぞ」
「あ、っ…、」

 いつの間にか宛がわれていたジンの欲がゆっくりと、モカの中へと入ってくる。お腹の奥を杭で裂かれていく様な激痛がモカを襲う。いたい、いたい、けれども……。

「ぅ、あ、ぁ……」

 気持ち良い。頭がぐらぐらして、このままショートして死んでしまうかもしれない。奥底をジンの欲が抉る度に、全身が痙攣を起こし脳味噌が揺れる。

「これ、っ、もしかしてぇ、くらげさんの、きもちなのかなぁ……っ」
「あ、ァ?」
「だって、あたま、ふわふわって、きもちよくてぇっ、あっ、あ、ダメっ…!」

 ギチギチと締め付てくるモカの肉襞に、ジンは歯を食いしばって射精感を抑えていた。気を抜いてしまえばすぐにでも出てしまいそうなキツいソコは、病み付きになりそうな程気持ちが良い。モカの足を肩に乗せて、溶け合いそうな程に身体を密着させた。

「あ、あっ、ダメっ、ジン、ぼくもうっ、だめっ、あ、あああ……!」
「くっ……ぁ」

 熱いモノがお腹の中に広がっていく。ジンの暖かな体温を感じながら、モカの意識は白に塗りつぶされた。


20180825
4300文字