▽こっち見ろ(跡ジロ)
新テニ合宿中。
「お……ジローじゃねーか」
「ホンマや、こんなところに居ってんな」
確か今日は試合が無いと言っていたからぐっすり寝てると思ったが、珍しく起きて試合観戦に混じっているようだ。
「もうすぐ俺様の試合があるから誘ってやるか」
「相変わらず上から目線やなぁ……」
「うるせぇ。おい、ジロー!」
コートのほうに目を向けているジローに呼びかける。
これだけですぐに跡部の元へ尻尾を振るようにして走ってくるのだ。
と思っていたが、ジローは変わらず試合のあるコートのほうを見つめている。
「アーン? 気づいてねぇのか? 珍しいこともあるもんだな」
そのままジローのほうへ近づいていくと、忍足がジローの目線の先にあるものに気付く。
「あー……跡部。アレや」
「何だ?」
「今そこのコートで立海の丸井が試合しとるやろ」
「丸井? あのジローがよく騒いでる奴か」
コートのほうを見やると確かに特徴的な赤髪が高校生と試合をしていた。
試合は丸井がかなり優勢のようだ。
「マジマジスッゲー!! 今の! もう一回やって!」
「あのな、今は試合中だっつの」
「だってチョー! カッコよかったもん今の!」
「……少しは声抑えろよな」
「なんや、ジローの片想いかと思っとったけど、案外仲ええんやなぁ」
試合の合間に喋り合う二人を眺め、忍足が意外そうに呟く。
それは面白いものを見たという野次馬のような気持ちも含まれていたが、跡部にとっては逆だった。
「チッ、俺様に気付かねーなんて試合がないからってたるんでんじゃねーのか」
「ふっ、男の嫉妬は醜いで?」
腕を組んで悪態を吐くと、忍足が鼻につくような笑みで茶化すように言う。
「誰が嫉妬だ!」
「はいはい」
「ったく……、おいジロー!」
さっきより大分近づいた距離で、更に大きな声で呼べば、さすがのジローも振り向いた。
「あっ、跡部ー! それに忍足も、どーしたの?」
いつもより心なしテンションが高い。
それも丸井の試合を見てるからかと思うと、跡部の心は少しくすんだ。
「次に俺の試合がある。大した相手じゃねーが見に来てもいいぜ」
「マジマジ行きたいC〜!!」
それでもこうやって興味津々に身を乗り出すジローの姿は、とても可愛らしく思える。
いつもの反応に安心を覚えた跡部だった。
しかし、
「あ、でもまだ丸井君の試合終わってないんだよなー。どうしよー」
ジローは横目で丸井の試合を見る。しばらく単調なラリーが続いているようだ。
いつもほぼ欲望のままに行動しているようなジローが迷うのを見て、跡部は苛立ちを感じた。
他の氷帝陣の試合を見ているときでも、跡部の試合とあればすぐに切り替えるのに。
その丸井とやらは、特別なのだろうか。
跡部より輝いて見えるのだろうか。
「別に跡部の試合は今すぐってわけやないし、この分やったらこの試合終わってからでも間に合うはずやで?」
頭を抱えるジローに忍足が助け舟を出す。
跡部にとっては余計なことにしか思えなかったが、ジローは納得してしまったようだ。
「そっかー。じゃあ――」
「駄目だ」
「え?」
気付けば声に出ていた。
しかし後悔なんてものはなかった。
「お前は俺の試合に来い。今すぐだ」
「えー、でも……」
「丸井より面白い試合を見せてやる」
断言する。
隣で忍足がまたニヤニヤした表情を浮かべている気がするが、それはもう気にしないことにした。
「何か今日の跡部、強引だC〜」
ジローは不思議そうな目をしながらも、了承したようだ。
「うるせぇ。お前は俺の試合だけ見てろ」
「えっ、跡部それって告白だCー!」
首を傾げていたジローが一変して騒ぎ出した。
「なんでそうなるんだよ!」
「絶対そうだCー!」
「跡部、今のはジローに賛成やわ」
「な、忍足までそんなこと言いやがって……」
否定はするが、ジローは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら歩いている。
その様子もまた愛嬌があるが、跡部は腑に落ちない。
「跡部にヤキモチやいてもらえたCー!」
「違ぇっつってんだろ!」
「だいじょーぶだって! 俺、跡部の試合見るのが一番好き!!」
そう言って満面の笑みを跡部に向ける。
今日一番の笑顔だった。
「ったく、その言葉に免じて許してやるよ」
「あはは、跡部って意外とソクバッキー?」
「……お前にだけだ」
「ときめきー!!」
「このバカップルの間に挟まれる俺の身にもなってほしいわ……」
忍足のため息が聞こえた気がしたが、ジローの声が大きくてよく聞こえなかった。
深夜のノリで書いたのでよく分かんないです。
ブン太とは何だったのか。