「そ、それよりさ……今日の練習はどうだった?」
我ながらわざとらしい話題変換だと思った。ましてや相手が柳では上手く取り繕えるわけもない。
「そうだな……昨日から始めた新しいサーキットトレーニングでほとんどの部員が筋肉痛を訴えていた。無論すぐに弦一郎の喝が飛んだがな。とりあえずレギュラー外には関東大会が終わるまでは外さずやらせるつもりだ」
柳は幸村の言動に一瞬眉をひそめたが、
追及はしないことにしたのかノートを開き質問の答えだけを淡々と述べた。
「分かった。レギュラー陣の調整は?」
「問題ない」
「そうか。決勝も今まで通り完全勝利の報告を待っているよ」
「もちろんだ」
関東大会の結末を知りながらこんな言葉をかけるのは傍から見れば酷だろうか。
しかし今の幸村には、知らないフリをする他なかった。
自分の中身は未来からきたもので、自分の記憶では関東大会どころか明日には中学を卒業するところだった。そんな夢物語を語っても普通の人は笑い飛ばすだろう。しかし柳なら真面目に聞いてしっかりとした分析をとり解決策を探してくれるかもしれない。
幸村はそこまで予想していた。だけど、言えなかった。
このことを話したら、今より未来になる大会の結果を話さずにはいられないだろう。近い未来のことで何より気になることだ。
幸村は誰よりも常勝を掲げていたし、現時点の部員も皆それを信じて戦っている。
たとえ一週間後に壊れることになるとしても、今自らの手で皆の希望を壊すことは――できない。
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