※永井君死ネタです。




校庭から仲間の断末魔が聞こえた。
誰かが学校の敷地内に侵入してきたのだろう。
途切れ途切れだが、近くの闇霊が何か重いものにぶつかって消滅していく音も聞こえる。

どうやら、本格的にやばい奴らしい。
闇人は殻が使い物にならなくなるまでは自由自在に変形し、何度も復活することが出来るので
よくふざけあって銃の撃ち合いをしてどちらかが一時的に機能停止をする遊びがあるが
そんなあまいものじゃないと本能が伝えている。

何か…自分とは違う何かが近づいてくる。
得体のしれないものへの恐怖心からか、沖田は銃をそっと撫でた。闇人であるが、恐怖心はなくならない…彼らにだって感情がきちんとあるのだから。


「永井…」

張り詰めた空気の中で沖田がぽつりと誰かの名前を呟く。
永井?永井…って誰だ?
そんな奴、仲間にいたっけ?

自分の記憶には一切浮かぶことがない"永井"という人物が
何故かとても心に引っかかって、得体のしれない何かへの警戒をすることに集中が出来ない…。


厄介な殻を拾ってしまったようだ…。
よほどこの殻は"永井"のことを気にかけていたらしい。
ちょくちょく記憶が流れてきて鬱陶しい。

自由に殻を支配出来ないことに苛立ちを覚え始めた沖田とよばれる闇人は次の瞬間、身体が凍りついた。


「おっ…沖田さ…ん」


まずい、こんな近くまで来ていたのにこいつ…人間の気配に全く気がつかなかったなんて。俺としたことが…。
奥歯を噛み締め、銃を素早く構える動作をとった…
はずなのだが、身体は何かに縛り付けられたように動かない。

そして先程まで流れてきていた記憶が色濃く頭に映し出されて困惑する。
自分でも何がおきているのか分からず、とりあえず状況を理解することを試みようと重い頭を前に向ける。

チクリ と が胸にささる。


「ちがう…沖田さんじゃない、沖田さんじゃないのに…」


目の前の青年が銃を地面にゴトっと鈍い音をたてて落としたかと思うと、糸が切れた操り人形のようにその場にくずれていった。

今だ、今なら先制攻撃が出来る!チャンスだ!
頭ではそう命じているのに殻がいうことを全くきいてくれない。

「永井、俺だよ俺」


気がつけばその"永井"と呼ばれた青年に腕を回し、きつく抱きしめていた。
優しく背中を撫でて
つらかったなとか、挫けるんじゃないぞとか勝手に口が漏らしている。

青年は幼い子供のように声を上げて泣いている。
その悲痛な叫び声を聞いていると、闇人であるのに自分も悲しくなる。



あぁ…人間だから、死ぬことへの恐怖で涙が止まらないのか。
それともこいつが、永井が独りぼっちになってしまったからか。

普通なら耳障りで済んでしまうその叫びも、この殻の中で聞くと胸が張り裂けそうになる。
一体…この感覚は?
光を浴びすぎて自分はおかしくなってしまったのか?


髪をあげ、威嚇したような顔のペイントで獅子のように牙を剥いていたこの"永井"も
腕の中ですっかり小さくなって小刻みに震えている。


「永井、ずっと一緒にいような」

優しく耳元で囁くと、地面に押し倒して永井の持っていた銃を奪い、口の中に銃口を向ける。

焦りも嘆きも感じられない永井の黒い瞳はずっとこちらを見つめている。
パンッと銃声が響く。
玉は永井の頭蓋骨をメキメキと貫き、勢いよく美しい生きた血を溢れ出させた。

優しく自分に抱き寄せると右手が深紅に染まる。
ああ、この子はもう人間ではなくなる。
また胸にチクリと がささる。

青年が目覚めた時に
この胸の痛みの原因が分かるだろうか。


沖田は熱がひいていく永井の身体を大事に大事に抱きしめてニコニコと微笑み、
女の子がぬいぐるみを扱うように優しく撫でては永井、永井と彼が目覚めるのをせかしていた。




++++++
沖田さんじゃなくて
中の闇霊がメインな件について。
喜代田の章子ちゃんみたいにどんどん殻の記憶にモノホン沖田さんに覚醒してしまえ、なんちて。

永井君が不憫な目にあうのは私の好みです(血涙)
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