仏頂面が、手を付けられていないエネルゴンへ目をやるなり顔をしかめた。


「またお前は…」
「サウンドウェーブ」
「む」

そして、言い掛けたところを遮られて声色も不機嫌なものへ変える。
遮った男、もとい部屋の方、もといその部屋の主であるショックウェーブが、遮っただけでなく手を振ってまで出そうとするからである。
「…まだ何も言ってない。」と、ぶすくれた表情で男は呟く。

「言わなくともお前は何かしらするだろう」

機嫌とりもそこそこにつっけんどんに返した彼に、「当たり前だ」男は即答した。

「するな」
「断る」
「…」
「飯を食わねば何が起こるかわかったものではない。違うか?」
「私の補給は私が決めている」
「嘘吐け。お前のその"決定"は"減ったらする"だけだ」

腕を組み、男は彼を見上げ言い放った。
「………はあ」
データを打ち込んだモニターから機体を離し、ショックウェーブは半ば呆れたような調子で僚機に向き合った。
自分の前には自身の半分程しかない大きさのくせに何故か偉そうににらみつけている同僚。ぐちぐちと補給エネルギーについて説明しているその機体に何百回目かもわからない「小さい」という感想を抱きつつ、肩を指先で強めに押して敢えて頭上から言ってやった。


「…人にどうこう言うならまずそのもやし体系をどうかしたらどうだ?」


ずごんっ。

目に見えて、いや果たして参謀格がそこまで露骨でいいのだろうかいやしかしこの男だからだろう、咄嗟に握り締められた拳が背中側にある扉を殴った。
一部に盛大な穴をぶち開けて瓦礫を散らす光景に敢えて口を出さずに、ショックウェーブはその先の反応を待った。
僅かながら震える拳を後ろに隠して、男は聞き返した。

「…もやし、とな」

迷う事なく頷いて、
空気を裂く音がセンサーに届―――…いたと認識した直後には既に事は終わっていた。




若干悪気はなく素で言ってしまったので些か驚いたが、まあ、至って予想の範囲内だ。
しかしかといって、ぎりぎりと締め上げるケーブルに不快感が沸かぬわけもない。
「おいこらはなせ」
唸るように言うと、いくらか気が済んだのか(この妙に子供らしい性格は彼らしい)つんと顔を背けて返した。

「お断りだ、不摂生」

可愛くない。
ケーブルに意志が強く入り、銀の機体へ引き寄せられた瞬間、聴覚センサーに届いた即答にショックウェーブは目を細めた。
「撤回せよ」
「私は事実は曲げん」
ぺちぺちと触手状のケーブルで頬を叩かれる。小さな僚機の端整なフェイスパーツ、とりわけ強い色を放つ赤は笑っていない。

「ならお前が飯を食わないせいで僅かとは言え体調がよくないのも事実だな」

ショックウェーブの返答をすかさず論破して、どうだと言わんばかりに見上げられることに、いったいどうしてやろうかと思ったが、あまりにもしてやったりな顔色を浮かべていたので彼は取り敢えずお膳立てとして黙っておいた。
とはいえ公私ではない、こんなときばかりに付け上がる男である。
ブレインサーキットから少々有り合わせの単語を引っ張りだし、
「減らず口が」
と、そう言った。
そのように言われることも情報参謀はご存じだったのだろう、「よく言われる」と嘲笑混じりの声でやんわりと返される。

「…可愛くないやつ」
「男だ」
「見た目はよろしい」
「つまりはこの"もやし"体系が好きなのか。知らなかったな」
「…貴様…」

そしてこの様だ。大人気ない。

この頃休暇と呼べる休暇もなく、かといってあったとしてもワーカホリック過ぎて暇つぶしがわからなくなるような男だ、きっとそれでやたら自分に構ってくるのだろう。誇らしげな表情の割には言っていることが矛盾で理不尽であるということも、それに関して私が追求しないことを理解しているからだ。
あからさまに楽しんでいるこいつの態度はスパークに悪い。
気付かないうちに本当に長い付き合いになっているものだと半ば他人事のように感傷に浸る。
そして、そんな反応の薄くなったショックウェーブをちらと見やったサウンドウェーブはというと。

さてこのあたりが引き際かと、これまた完全に暇つぶしとして構ったショックウェーブとの会話に区切りをつけようとしていた。

「ショックウェーブ」
「…なんだ」


その空気は否が応でもショックウェーブに伝わる。
いまだ縛られ前屈みになっている機体(決して悪いほうの意味ではない)を所在なさげに一揺すりしたのち、このまま機嫌を損ねるのも面倒だと思ったようで、無言でサウンドウェーブの続きを待つ。

「俺はお前が嫌いではないが自身を省みないお前は気に入らん」
「…」

知るかと言わんばかりの表情を瞬時に浮かべたショックウェーブを見、ふふ、と押し殺さない笑い声を洩らした。未摂取のエネルゴンを見た時とは違う上機嫌さに、おやとショックウェーブが目をみはる。
その雰囲気を感じ取り白銀の参謀はマスクを開いて、にまりと笑んだ。

「前者であれば夜の方も困らないから悪くないしな?」
「!」

ショックウェーブが思わず、スルリと解けた内の一本ごとその持ち主を引き寄せる。瞬間、向かい合うバイザーの奥でアイセンサーがゆったりと細められた。
当たり前のように細い腕が首に回され、ここでようやく、ショックウェーブは不満を露にする。

どうしてこうなった、と深く漏れる排気。
胸元に押しつけられた頭部から含み笑いが聞こえる。
後頭部を爪でつつかれるのをくすぐったそうに身を捩って、だがしかし、無理に引きはがそうとはしない。

「、おや」

突如の浮遊感に、サウンドウェーブが抱き上げた主の顔を見やった。
生憎の体格差で細かい感情は伺えない。が、白銀の参謀はしばらくそれを眺めると口を開き、

「食べる気になったか?」


のしのしと自分を抱えて進んでいく科学者の先を見据え、笑いは浮かべたまま、首を傾けそう聞いた。

「生憎貴様の所為でな」
「それはよかった」

そして憮然と返された言葉に横抱きにされた体制のまま満足げに頷いた。
未だ漏れる笑いを隠さず小刻みに震えながら愛しげに頭部の突起パーツを撫で上げて、サウンドウェーブはその耳元で囁く。


「では、気が済むまで食ってくれ」



離れた唇をショックウェーブが捕らえ――――…以下割愛。



(配布元/空想アリア)
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