―…よろしく、頼む。

すり寄せられた頬におやと思った直後に、胸の装甲に強く押しつけられた俯きがちの顔の下から呟かれたそれは、幸運なことに私の聴覚センサーに感知された。
餓鬼を見る。
気配だけは敏感に感じとったらしい、見るなと言わんばかりにぐりぐりと頭を押し当てていき、終いにはかんと(本人からしたら全力で)装甲を叩いて餓鬼は押し黙った。

まあ…ずっとこのままよりも、極まれにこのくらいの素直さがあるのはよろしい。
いやメガトロンには常に出しているんだろうがとなんとなく塩辛いような気分になりながら、次は何時くるかわからぬそれに挨拶するような気持ちで、すり寄った顔を指の背で軽く撫でた。








「だからな」

「…む、」

失敬な。
腕の前の機体はそう不満げに鼻を鳴らした。

結局予想通りといってはなんだが、餓鬼はそこまで大きく育たなかった。それなりにいいエネルゴンを与えて育てても、片手サイズがせいぜい抱え込むサイズに変わった程度。
とどのつまりミニボットサイズに限り無く近く私の体長の半分以下までしか成長しなかったのだ。

「いったい何を俺に求めてるんだ」

胡座をかいた私の膝の上で背中を預けた餓鬼。既にサウンドウェーブと呼ぶ他ないほど長い付き合いになってしまったそれが、呆れ気味にこちらを見る。
薄いバイザーに銀の翅は健在だ。

「もう求めるものはないが…」


じっと見る。

綺麗なものだ。と、第一印象ににたものを感じる。
一時期未熟児なんじゃないかと他のディセプティコンが慌てていたが、確かによくも私もそれで疲れずに育てられたものだ。これの性格のコントロールは中々難しかった。それでも、可愛げというものはやはり極まれに見せられた訳で。
相変わらずメガトロンにだけはフルでそれだったのだが、素直さを出している時はこちらの改善点を把握することが出来る――…と、更に言えば"癒し"に似たものを感じることが出来たのでこちらも有り難かった。


「…強いて言うなら、お前が大きくなったことでそれが見られる確立が更に半減したことだろうか」


嘲笑。

「残念だな」
「そういうところが増えたのもいただけん」


可愛くないところも減らず口をたたくところも素直じゃないところも。
これらすべて引っ括めて"愛情"に変換することの大変さを知らぬ過去の自分に言ってやりたい。


「だが今はそれが好きなんだろう?」

にやにやと笑う元餓鬼の口に口を押し付けて黙らせる。




「――…まったくもってその通りだ。情報参謀殿」





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