メガトロンに引き裂かれて死んだ機体が復活し、多少のトラウマを持ちつつも、新しい人(?)生を歩むジャズは今日も機嫌が悪かった。
復活した当初はバンブルビーや双子がよく元気づけようと騒いでいたが、元気になったように見えても結局影で不機嫌になってしまうので、さすがにお手上げ状態らしい。
一体ジャズはどうしたんだろうかと彼等はオプティマスにそれを伝えたが、メガトロンや半強制的な蘇生以外の理由となると、彼としてもそれを解決するのは難しく。結局、蘇生されてから早3ヵ月、不機嫌の原因に周囲を悩ませながらジャズはNEST基地で過ごしていた。

別段困らせようとして困らせているつもりはジャズにはない。だが、3年間戦争に加わることの出来なかった空白、あれほどの殺し合いをしたにも関わらず、終わらないと思っていた戦争がいつの間にか和平していたのだ。
何があったのかまだ聞いていない仲間もいるが、よくもあのディセプティコンと一緒に過ごせる。ディセップ嫌いのディーノは四足歩行のディセップと意思疎通を図ろうと躍起になっていて、メガトロンに一度殺されたというオプティマスはそれと仲良くセイバートロンの復興作業に勤しんでいて、あのラチェットは火星からきたというディセプティコン軍医とスワイプと双子を追いかけて、弟分であるバンブルビーは性悪ポリスとの手合わせを楽しんでいて、あれ程敵を蹴散らす兵力で恐れられていたアイアンハイドは黒ヘリ2体と武器談義ときた。
これじゃあ俺だけが場違いみたいじゃないか。というのがジャズの心情である。

彼等が気に食わないと言わなければすまないほどの違和感と苛立ちに、ジャズは日々葛藤し不機嫌のように見られており、せっかく生き返らせてもらったというのにという負い目もあってか生前のようにムードメーカーとして動いたことはまだない。
何故かサムだけはそれらをなんとなく察した上で会話しにジャズの元を訪れるのが、今の彼の安定剤だ。


「どうにかしねえと…」

今はまだ引き千切られた跡のリハビリで出ることはないが、いずれ自分だってディセップの残党狩りに参加することになる。だから、早く白黒つけなくちゃならない。
泣きじゃくる女の金切声を使い不機嫌の解消を訴える弟分を宥め、改めて、オートボット副官はそう思った。


そして不安といえば、もう一つ。

復帰を目指そうとしているジャズには、あること――苛立ちの原因や孤独感ではない――が気になっている。気になっている、というよりは、薄々感じさせられている、という釈然としないことがある。
それは、2回目のエジプト戦から参戦した兵士の1人が、ヘリコプターから基地に着陸する際、離れた地上に見えるソルスティスを見てかけた一声だった。

「――…、どうしてお前がここに!?」

が、その名前はジャズには全く関係のないもので。
その時は聞き間違いだと忘れることにしたのだが。
ある時は脚だけを見られて。ある時は影だけで見られて。またある時はビークルモードで変形訓練をしていたときに。
ついには一ヶ月の内に数えきれないほど間違えられて、さしものジャズも、一体どういうことだと首をひねって考えた。

銀色で、同じようなシルエット。
銀色の機体ならいくつか心当たりはあったが、自分に間違えられるような見た目のトランスフォーマーはボッツにもディセップもいなかったはずだった。
まだ話してもいない新入りだろうか。そう思うも、いくら探してもそんな機体は見つからない。問いただすと大体は申し訳なさそうに濁して応えるし、幾人かだって何かを隠すかのように別の話に移行しようとする。
それ以上無理に聞き出そうとするほど重大事項ではないので、はやく白黒つけることはつけて、あとは気長に待とう、という結論にいたった――…のだが。

ある日、間違いの機体に良く似たトランスフォーマーがネメシスから出てきたことで、その疑問は一気に解消された。



「…っ誰だあれ!」


ジャズに似たプレート状の突起が目立つロボットがビークルモードを解き立ち上がる。
大きさはバンブルビーより少し大きいくらいで、車体は間違なく銀で、逆光により目の色はわからないが全体的なプロポーションは確かに自分そっくりだ――…と、ジャズは心底思っていた。
かなり離れた場所にいるが、あれは間違なく件のトランスフォーマーだ。
そう思うやいなやソルスティスとして走り出し、逃げようともしないサイバトロニアン目掛けて直進する。
サイバトロニアンと同行していたスタースクリームがカメラアイを盛大に見開いてた姿はジャズ的にかなり面白かったものの、それを撮るよりも先にサイバトロニアンの元へ滑り込んだ。


「…やあっと見つけたぜ!」


こいつが。
このサイバトロニアンが俺の存在を危うくさせている。

あまりにも理不尽な思い込みだ(何せNEST隊員も他のトランスフォーマー等もジャズに気付かなかったことはないし、この銀のサイバトロニアンがジャズの存在を危うくさせているなどと言ったこともないのだ)が、件のサイバトロニアンには大層申し訳ないことに、些か正気を失いかけたジャズであるのでここはどうにか我慢してくれることを願うばかりである―――

そんなこんなでようやくジャズが少し高い肩を掴みあげた。
そしてそのまま、その面拝んでやると言わんばかりにジャズが睨んだ視線の先には。




「…はぁ?」




綺麗といっちゃあ綺麗だが。
そのあまりにも端整なフェイスパーツを露骨に歪めた「心底理解しがたい」といった嫌悪の表情があった。


「…エ?」


ジャズにとって、些か変更点はあるものの、そのフェイスパーツ等には嫌すぎるほど見覚えがあった。
信じたくない、とブレインが警鐘を鳴らす。
だが、現実は無情である。
現場の状況に首を捻る航空参謀が、「なんだサウンドウェーブ、お前このチビ将校と知り合いか?」という呟きは、彼の正面に立ち塞がるように背を向けて立っていた哀れな将校にも聞こえ、
「知ってはいるが…」
という、控え目とはいえ確実に引いたエフェクトボイスの追い討ちにその場に両手をついた。

嘘だろ。

その一言につきる。


サウンドウェーブ。
サウンドウェーブって。
あのサウンドウェーブって。そんなのあんまりだ。
期待してなかったといったら嘘になるくらい、出来れば女の子だといいなとかオートボットだったらとか俗な欲くらいは抱いていたのにまさかまさかのサウンドウェーブ。THE☆情報参謀。
セイバートロンにいたときの姿と全く違うし。こんなやたら逞しいサウンドウェーブ知らないし。こんなに(見た目が)丸っこい可愛い情報参謀様なんて知らないし。俺の知ってるサウンドウェーブって、なんというか、こう…全体的にシャープで翅がキレイで、ミステリアス且つスッキリ且つすっげえエロティックな感じのイメージだったのに。一度ならず二度くらいは抱きたいとか思ったくらいの美人なのに。なんだろうこの落差。どう考えてもトドメです本当にありがとうございました。
そうじゃない。

ガバーッと上半身をあげる。

汚物を見るかのような引きながら冷めた目付きで見下すサイバトロニアン、もとい情報参謀サウンドウェーブを見た。

「…ほんとにホントにサウンドウェーブ?」
「まともな質問をしておきながらサーキットで気持ち悪いことを並べ立てるなスクラップ野郎」

うん、口の悪さは健在らしい。

ようやく見つけたトランスフォーマーがサウンドウェーブだと発覚したにも関わらず、何処か落ち着かない気分になるのに違和感を覚えつつジャズは「死ね」と言い放つサウンドウェーブを見つめた。そうすると、まだ落ち着ききっていないスパークが落ち着いて行くような気がしたので。

「お前Mなの…?」
「違えし黙ってろ折檻参謀!!」
「ンだとチビ!!」
「引っ込むのはお前だ卵参謀」

サウンドウェーブの冷徹な切り捨て発言に「2対1とか卑怯だぞコノヤロー!!」と飛びさっていくスタースクリームに目を向けずに、ジャズはただ1人、サウンドウェーブの前で頷いた。
こくこくと首を振る彼を、訝しげに眺めるサウンドウェーブ。
時折ブレインサーキットを覗き見ながら、ジャズの行動を暇つぶしがてらと待って見る――その間にも彼のブレインサーキット内は時を追うごとにカオスかつ収拾がつかないものになっていくのだが、サウンドウェーブがそこに手を貸すことはない。あくまで観察対象に過ぎないので。

しかしながらジャズといえばまだ何かを勘違いしたまま考え込んでいる。
言いはしないしジャズも顔をあげないので気付かれはしかなかったが、黙っていれば10機中10機が美人と答えるサウンドウェーブのフェイスパーツが見る影もなく険しくなっていく。
人工衛星の代わりとしての長期任務で疲れた機体に押し寄せる、ほぼ初対面のくせに馴々しすぎるこの男。これで副官とかオートボットも腐りきったなと愚痴を吐く気も失せた。今直ぐ戦艦に戻りたい。済ませるならさっさと済ませてメガトロン様に報告させてくれないか。
生憎殆ど話したこともないのでいまいち反応の予想が出来ないのだが、サウンドウェーブはこれ以上待つことはしたくなかった。

「―…お前」

いい加減に…と言いかけたところで、勢いよく、そして強く両腕を掴まれる。



「……これは…なんだ…」

たっぷり数サイクル、時を忘れるほどサウンドウェーブはその行動にスパーク共々精神的に参っていた。

馬鹿にも失礼なくらい酷い思考回路の持ち主であるジャズだったが、流石副官である、ディセプティコンに対する敵意やポリシーはしっかりしているのだ。敵意はセイバートロンにいた時よりも増しているはず。にもかかわらずこうして至極真面目な表情でこちらの両掌を握っているのだ。
やっぱり関わりにくい。そう再認識する。

「なにって、そりゃあ」

意外そうに、それでも何かで機嫌がよくなったのかへらりと破顔してジャズは続けた。両手両腕の延長線上、せり出したボンネット部に手を掛けて、サウンドウェーブを引き寄せる。


「俺、アンタのこと好きになってたっぽいんで」


薄い唇を掠め、ジャズが背伸びをして笑った。

「……そん、な、にを馬鹿な」

口元を強く拭ったサウンドウェーブが、一瞬視線を泳がせたのちに吐き捨てる。苛立ちもそうなのだが、そしてブレインスキャンもしていたのに気付かなかった自分も悪いのだが、この男、さっきから全く話が噛み合わない。

「そういうんじゃねえ」
「だがお前は俺を追いかけ探していた。有り得ん事ではないだろう」

釣り橋効果というか、多分言葉や意味合いは違うがそんなもので惑わされたに決まってる。

オートボットがディセプティコンに、しかも性格も真逆な、更に言えば男性型トランスフォーマーに恋愛の真似事をするなど前例がなかったし、まさかそれを自分自身で体験するなどとサウンドウェーブは諦めに似た境地の中深く排気した。
復活した将校が不機嫌だとは聞いていた…が、正直こんな頭がイカれかけてきているとは。

「…冗談は好きじゃない。」

いつの間にか深く思考回路を働かせていたことに気付いて、ジャズと遭う前からそれなりに不調だったブレインサーキットの疲れをサウンドウェーブは強く感じた。それが任務からのものなのか、それとも先程からのジャズのせいなのかはわからないが。

「冗談キツいぜ」
「だから」
「冗談じゃない。好きだ」
「…何を根拠に…」

なんならもう一回、とサーキットをカオスにさせながら笑い顔を寄せたジャズは、躊躇なく顔をひっぱたき掴む腕を振り払いケーブルで叩き返してくるサウンドウェーブを嬉しそうに眺めて、ぱっと身を放すと、何事もなかったかのように走り出す。
気付いたサウンドウェーブがビークルに変更しエンジンをふかす中、一方早く走り出していたジャズは叫んだ。

「だって今サウンドウェーブにこんなことされたって、こんな嬉しいんだもんよ!!」
「五月蠅い黙れその口を閉じろ!」


「愛してるぜサウンドウェーブ!!」


その大音量での告白は、大層NEST基地に響き――…様々な者を驚かせ、サウンドウェーブを激怒させたという。







「…何か言うことは?(頭踏み付け)」
「やっぱサウンドウェーブが好きだ!」
「死ね馬鹿っ!」



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