地球、よく晴れたある正午。
カンコンと戦うサイバトロンとデストロンの戦闘の最中、

「――っいい加減にせんか馬鹿共めが!!」

晴天の下、突如として叫ばれた破壊大帝の怒声に、その原因の現場を眺めていたサンダークラッカーは、やっぱり、と呟いた。







事の発端は両軍が戦い始めた中での、両軍から確立している恋人たちの行動だった。
というのも、サイバトロン諜報員ブロードキャストはデストロン情報参謀であるサウンドウェーブと、最近やっと長い眠りから覚めたサイバトロンスカイファイアーはデストロン航空参謀と付き合っているのだが、今まではあまりそれが公にはなっていなかった。
未だそれを知らぬものも幾体かいたし、両軍リーダーらも付き合いを気付くも交際を止めなかった。
かくしてデストロン格参謀から2体がサイバトロンに(実質的には)嫁にもらわれた訳だが、如何せんその彼氏らが嫁にべた惚れで空気を読まない。

スカイファイアーはサイバトロン星での交流を思い出すままスタースクリームを甘やかす。結果、スタースクリームのニューリーダー病が角を見せなくなった代わりに彼は毎晩スカイファイアーに会いに行くようになった。これらは他のデストロンやサイバトロンが注意を促すことで、スカイファイアーからスタースクリームに伝わり控え目になっていたのだが――…
ブロードキャストとサウンドウェーブのカップルはそうはいかなかった。

他機に気付かれない程甘さを感じさせない殺伐とした全力の戦闘はコンボイすらも閉口させ、メガトロンは二度見して、常に余裕を持ったマイスターでさえ口角を引きつらせ唖然とした。
一方当事者のブロードキャストといえば「これが愛情表現だし」とからからと笑う始末。もう一方のサウンドウェーブは全身をぼろぼろにさせながらあっさりそれを肯定するのだ。いくら戦争でも、いくら他機の恋愛事情に口を出すのが野暮だとわかっている取り巻きたちも、これならカップルであることを公表しなかったほうが無視しやすかったと嘆くしかない。
サウンドウェーブの傷は増えるたびにカセットロン等を他機に泣き付かせ、それをあやす機…アストロトレインやスカイワープも流石に同情した。
無論サウンドウェーブにではない。カセットロン等にである。


そして今日、気を揉みつつ戦いに身を投じていたメガトロンの真横を(多分)恋人に吹き飛ばされたサウンドウェーブが過ぎた直後こそが、冒頭に繋がるのだった。








「サウンドウェーブ!」

音を立て背後に叩き付けられた幹部を抱き起こす。
意識はあるようだが、バイザーに深く入った亀裂と垂れるオイルは決して浅くない傷によるものなのは言うまでもなく、破壊大帝はぐうと唸った。
投げてきた先を睨む。
朱色の機体がマイスターによって阻まれており、よくやったと思う反面「近頃の若者は恐ろしい」と思う。
起こしたサウンドウェーブをサンダークラッカーに預けて、メガトロンはブロードキャストの元へ歩を進めた。
頭一つ分差があるその機体の前で、メガトロンは銃を振り上げぬよう拳を握って彼に言った。

「最初に言った台詞を覚えとらんのか?」

嘲う声が返ってくる。

「いーや。でも破壊大帝サマには関係のない話だもんでね」

これは俺っちと面汚しの問題だからと言い切る諜報員に悪気は感じられない。
つくづくサイバトロンの科学者(以外も大した性格だが)はろくなものを造らないと実感した。…それをサウンドウェーブ対策にサウンドウェーブに当てつけた事も含めて。
肝心の情報参謀がこの朱色のサウンドシステムを受け入れているので、今嘆くならレーザーウェーブしか頼れるものがいないがそこは諦める。
今はそんな嘆く暇などないのだ。

「サウンドウェーブは儂の部下だ!付き合う気があるなら多少の誠意も見せろと前回も言ったではないか!」
「サウンドウェーブは俺の標的で恋人で殺したいくらい愛してるの!勝手に口挟まないでよ!」
「ならばこちらからすればサウンドウェーブは儂らの仲間であり家族であり限界まで言い換えれば息子のようなものだ、みすみすサイバトロンの若僧に渡すものかこの不届きもんが!」

((((それはなんかちがう))))

ヒートアップする2機に周囲のトランスフォーマー等はそう思う。
サンダークラッカーに支えられたサウンドウェーブでさえ「エ…」と呟いたきりそれ以上の言葉を失った。

「時代遅れのエコ大帝になにがわかるってんだ!!」
「ちょいと最近生まれたばかりの小童が偉そうな口を叩くでないわ!!」

手出しも出来ず口出しも出来ずどうしたもんかと周囲がうろたえている中、もう誰としてあの中に飛び込む奴等はいないだろうと思われたとき――… いた。よく考えれば最強(最凶ともいう)の男がいたではないか―…
そう両軍がどよめく間に、その男はメガトロンとブロードキャストの前にどどんと仁王立ちしていた。

「まあ待て2人とも!」

コンボイである!


「なんだ貴様邪魔をするな!」
「邪魔しないで司令官!」

「いいや断る!」


胸を、いや機体を張ってコンボイは非難を跳ね返した。勢いづいていた2機はあまりの態度に一瞬動きを止める。

そこを見逃さないのが我らがサイバトロン軍司令官である。

もはやスタースクリームに次ぐ代名詞となりつつある奇声(少なくとも一般に属する者は出さないので)を発しながら、コンボイは素早く両手を左右に突き出し、そのまま走り出す。
力強く地を踏み締める彼を茫然としたマイスターが視線のみでおっていき――…上司がやらかそうとしている行動をある程度把握し頬を引きつらせ、息を吸い込んで、

「避けろッ!!」

吐き出された警告に正気を取り戻した2機が眼にしたもの、それは。
ブロードキャストには上司の左腕らしきもの。
メガトロンには宿敵の右腕らしきもの。
それぞれ疑問に思う間もなく、大して考えられていないコンボイのラリアットが炸裂したのは、警告の直後のことである。


スタースクリームが轟音にびくついたのをスカイファイアーが宥め、それを見て舌打ちしたスカイワープをアストロトレインがからかい、アイアンハイドがブロードキャストの元に駆け寄ろうとするのを諦めろと言わんばかりにラチェットが止め、いざとどめを刺さんとするクリフをリジェが、更に引き負けかけるリジェをハウンドが引っ張り、それらを遠い目で眺めるサンダークラッカーに半笑いのマイスターが肩に手を置いた。

「…ウチの司令官がすまなかったね」
「…もう何が悪くてもどうでもいいから大丈夫だ…」

どいつもこいつもヒューズが飛んでばっかりだ、と排気するサンダークラッカーの腕の中には、小さいながらも傷だらけになったカセットテープ、サウンドウェーブがいる。マイスターが指で撫でてもウンともスンとも言わないあたり、やはり意識を失っているのだろう。
キャノピーから伸ばしたコードで彼に簡易リペアを施していく。
ただの殴り合いとはいえ、間も置かずに続ければそれは積もる訳だ。元々サウンドウェーブは情報参謀になる前から格闘には向いていなかったし、地球にきてからも格闘に強くなってもいない。
そんな彼の内部コードの至る所に見られる鬱血痕やどう見たって重症とわかる今回の傷は、それらを好まないサンダークラッカーには些か酷であった。
視線を感じてサンダークラッカーは横を見た。ばちりと青と目が(?)合う。

「…なに、心配してんの?」
「君と彼にね」
「多分それアンタだけだぜ」

視線を遠くにやる。
倒れ付した2機を、片方はグレンが、片方は(あまり乗り気でなさそうな)ラチェットがその場でリペアしているのが見える。
性質も性格もまったく違う2人だが、それでも、時折口を開いて笑いあう姿は大層楽しげだ。(その奥で電子手錠と猿轡をされた赤い機体が簀巻きにされているが気のせいだろう)

「恋人でない敵同士だってこうなのに、どうして彼等はああなってしまうんだろうね」

それ俺も思った、とサンダークラッカーは苦笑した。

「敵同士の恋愛ってそういうのなのかね」
「じゃあ君の上司の恋愛はどうなる?」
「兄弟機の惚気話はもうごめんだ」
「おや、それは失礼」

マイスターが恭しく頭を下げそう言った姿を、サンダークラッカーはなんともいえない気分で眺めた。

「いや…そこまでせんでも、」

慣れない対応と雰囲気に呑まれるような妙な心地になりながら、彼はヘッドパーツを掻く。
腕の中の同胞を見た。

サウンドウェーブのことはそういう意味で好きなんじゃない。だけど、それでも、カセットロン等の泣いた回数も数えきれないものになったし、こんな傷付きかたで怪我を増やされるのは不愉快だ。それも、恋愛でだなんて。
サンダークラッカーは、サウンドウェーブのことをよくは知らない。

けれども、一度だけ、知ったことがある。
泣いて泣いて泣き疲れスリープモードに入ったカセットロンを抱き抱えて、彼等を治療中のサウンドウェーブに会いに行ったときだ。「フレンジー達が可哀相だとは思わねえのか」と駄目元とはいえ苛立ち紛れに言ってみると、プライド高いあのサウンドウェーブが、リペア台の上で、「こうなりたかったわけじゃない」と。かぶりをふって応えたのだ。
今まで当たり前のように大怪我ばかりしてきたサウンドウェーブのことだから、嘘だと思うことも出来たのに、それでも、マスクもつけていない傷だらけの機体で、そんな機体でフレンジー達を撫でる掌は優しすぎて、そんな中で言われたそれを振りはらうようなことは出来なかった。

「…どうにかしてえなあ…」

例えそれが彼のその場しのぎの演技でも。自己満足と罵られてもいいから、サウンドウェーブの助けになりたかった。

「どうにかっていうと?」

マイスターが聞き返す。流石に理由をはっきりいうのは憚られたので、大雑把に伝えた。


「…ああ。そういう」

納得したような表情を浮かべてマイスターは頷いた。
――呆れられただろうか。
甘すぎるとはいえあまり深く他者に介入するような男ではないし、そもそも敵だし。ネガティブ思考がいけなかったのか、心なしか今の台詞も厳しかったような気がする。
これでその通りだったら、本当に俺1人で物事を進めなくちゃならなくなる。

「うん。いいんじゃないか」

そんなサンダークラッカーの思いを良い意味で裏切って、マイスターは再度頷いた。バイザーがついているとはいえ口元だけでもわかる笑みに、サンダークラッカーは脱力し、その場に座り込んだ。起きないことを祈りながら、腕中のサウンドウェーブを強く抱き締める。
そんなサンダークラッカーを見て、件のマイスターは「そんな不安いっぱいになった顔見せるなんて」と些か複雑な心中を持っているのだが、それをサンダークラッカーがわかるわけもない。
「よかった…」
そう一言呟いて、デストロンらしからぬはにかんだ笑みを彼に向けた。

「私の言動で不安にさせてしまったようですまない」
「いんや、もう大丈夫だ」
「そう?」

なら良かった、と爽やかに笑ったマイスターの奥。

違和感を覚えたサンダークラッカーがカメラアイを絞ると、こちらに向けて軽く手を振るラチェットとグレン。
首を傾げ、今の違和感と2機についてを伝えようとマイスターを見上げる。
見上げた先に、ロボットモードのまま悪戯っ子そうな子供っぽい笑みを浮かべこちらを見るスカイワープと、それを呆れたように悪態をつくスタースクリームが。それを抱き締める形でにこにこ笑っているスカイファイアー。
え、なに?
いよいよおかしいと思い始めた矢先、通信回路に届いた知らない通信先からの情報メッセージ。

「いっ!?」

メール形式で届けられたメッセージには、『コンボイ』と件名に書かれていた。

ばっとマイスターを見る。
「…何やった?」
強く睨み付けると、申し訳なさげに、しかし悪戯が成功したように彼は笑った。


「ちょっと軍の良心に生中継をね」


私だけじゃどうしても力不足になってしまうからと続けるオートボット副官を尻目に、ピジョンブラッドのアイセンサーが、目一杯見開かれる。

「じゃあ、今の皆の行動って、もしかし、て、」

冷たくなったオイルが背筋を流れ落ちる。
考えたくもない。
考えたくもなかった、が。
…マイスターからサイバトロン軍に、ラチェットからコンボイとグレンに、グレンからデストロン軍全員に俺の考えが流れに流れたということだろうか。

「…嘘、」

なんてことしてくれたんだコノヤロウ。恨めしげに見ても爽やかな笑顔を浮かべるばかりのこいつは、やっぱりサイバトロンだった。

「私達も手伝いたいから」
「…」
「ね?」
「…って」

「どうしたんだい、サンd」

「だからって、無断で回すんじゃねえよばかぁあああ!!!」




(副題:巻込まれ体質な航空兵が頑張るはなし Vol,01)




取り敢えず、コンボイから来た『私にいい考えがある!』というメールは削除しておこうと思った。



(配布元/虹女王)
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