―…結局、大したことではなかった。

メガトロンから指示されたデータを処理しながら、先程の惨めさに不機嫌になったのを隠さずサウンドウェーブは歩く。
別にメガトロン様がどうでもいいわけではない、と自分に確認し、そして再度思い出される情けなさと屈辱に塗れた光景に首を振った。
スタースクリームの間の悪さは今に始まったことではない。が、別に今日のさっきでなくても良いではないか。元々ショックウェーブと接触出来る機会も限られているというのに。どうしてあれはああなんだろうか。
相変わらず腹が立つ奴だと思いつつ通信回路を開き、忠実な部下を呼ぶ。

「…レーザービーク」
(これがやってられるか、)
《なんだァ?》
「スケジュール変更だ。」

明後日に仕事がいれられるようになった。

そう伝えておくと、察しのいい奴は俺の意図を汲み取ったのか、しばしためらう音と共に、了承の意を示した。まあ、大方入れると思わなかったのだろう。ラヴィッジやフレンジーと遊ぶと決めていたようだから、時間が減るのを残念に思ったかもしれない。
近い内にカセットロンが必要のない任務をいれよう―…それで埋め合わせができればいいが、とサウンドウェーブは身内の心配をしつつ、外を見た。

「……」

月見とは違い、星を見るという訳の判らん風習だ。願い事が叶うとも思えない。それに、衛星に成っていた時となんら変わりのないように見える。
…割りに合わず浮かれていたから違うと思い込んだのかもしれない。
我ながら追い討ちをかけるようなことを良く言えたものだ、と排気する。

(暫くは顔を合わせないでおきたいものだ)

小さく想い人の名を呼んで、星の群に向けて放たれたブラスターの軌跡は虚空に消え――…そして、情報参謀サウンドウェーブの姿も溶け込むように夜空へ消えたのだった。








にゅっと目の前に現れた僚機の機体に。

「……」

サウンドウェーブはカセットロンに指示しかけた命令を途切れさせるほど困惑した。俯いてもう一度確認する。…いる。やはり目の前にいるのは現実で正しいらしい。どういうことだ。
急遽仕事を手配したレーザービークを見やるが、回線越しに響く
《おおお俺はこんな事知らねえぜ!何も知らなかったんだ!》
悲痛過ぎる金切声に、完全に眼前の僚機が独断によって仕事に介入したのだと理解した。

「どういうつもりだ」

安定しない感情を押し殺した声は震えを隠しきれなかった。察しのいい僚機に首を傾げられ、ばれていないとわかっていたが、すっとオイルが引いた。
…真紅の単眼がじっとこちらを見つめて来るのは非常に落ち着かないが、ここは自身の気分の問題のため割り切っておく。

「どういう、とは」
「そのままだショックウェーブ。」

至極当たり前といった口調(残念ながら彼は表情が判り辛い顔である)でショックウェーブが問い返し、サウンドウェーブはそれを言及した。軋む音をたててショックウェーブの頭が傾き、そうか、と納得したような声を出す。
どういうつもりだ。
現状を理解しようと、情報参謀は彼を睨み付けて再度問うた。
咎める口調がわからないとでも言うように、

「お前の事が心配になってな」

科学者は自身の知りうる限りのありのままを簡潔に伝えた。


「…は?」

心配?サウンドウェーブはケーブルを展開しかけた手を恐る恐る降ろした。心配、とは、また。
また新たな質問を言う気にもなれず、騙されているんだと思い込もうとするブレインサーキットは動揺と混乱の域を超えている。
この男が、心配。
面白くない冗談だ、とサウンドウェーブはサーキットを掻き回す僚機を見上げた。

「スタースクリームが来る前、何か言いかけただろう」

何と言うことはないが、少し違和感があったのでな。そう続けるショックウェーブは至って真面目な声色だ。
妙な嬉しさと動揺を気付かれていた羞恥に視線を逸し、だがしかし今までに聞いたことのなかった言葉に情報参謀の笑いは止まらない。

「ふは、ははは、心配とは、お前がっ…く、ふ」

途端ショックウェーブの口調が不愉快を滲ませる。

「なにがおかしい」
「いや、別、に」
「笑い過ぎだ」
「くふっ」

肩を震わせ口元を押さえるサウンドウェーブのサーキットには、最早負の感情はないようなものになっていた。
似合わない心配の台詞は十二分に満足させられるものだと彼自身も理解出来ていたが、それらを上回る、自身の感情の起伏が馬鹿馬鹿しくて滑稽だった。

「…っいや、悪い訳ではない、」

後を引く笑いに声までもが震えるが、いい加減にしないと状況が悪化するのは目に見えているので持ち堪える。
むっすりと不貞腐れたような視線と雰囲気を醸し出す科学者に、サウンドウェーブはもう一言、正直にいってやった。

「お前からまたそんな言葉を言われたら今度こそ浮かれてしまう」

滑るように吐き出した言葉は、紛れもない事実だった。


「…そう、か」

よくはわからないがショックウェーブは何かを理解したようだった。
それでいい、とサウンドウェーブは思った。
何故、どうしてと沸く疑問はまだまだたくさんあるが、今日だけはきかないでおく。


だって、今はとてもじゃないが、まともな表情が浮かべられるほどの余裕がない。
自分らしくもない小さ過ぎる声で、そうだ、と頷き肯定する姿を見つめるショックウェーブの瞳が、心なしか柔らかなものに見えたのはきっと気のせいだ。





自然な動作でポンと俺の頭に手を乗せて、「お前が私の言葉で浮かれるのか」と呟く。その続け様の、
「浮かれるお前も悪くない」
その言葉がどれだけ俺を引っ掻き回しているのかなんて、この堅物には理解は出来ないのだろうが。



(配布元/空想アリア)
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