青い燐光を残し、エイリアンジェットが夜空を裂く。
見知った機体が轟音を立てて星海の中を潜ってゆく様は、機体から連絡を受けていたショックウェーブからも確認できた。
斜めに泳ぐ鳥のような機体、情報参謀への通信回路を開く。起動した合図である電子音は果たして届いただろうか、とショックウェーブは空を仰いだ。
飛んでいる様は美しいという形容詞がよく似合う姿だだろうが、如何せんそのような感性は深くは持ち合わせていない。故にそれ以上は思わず、そのまま、返事もしない僚機を待った。
見上げた先の鳥が、器用に頭上で弧を描く。

《―…何の用なんだ、サウンドウェーブ》
《…いや、》

珍しく聞く申し訳なさげな音声に首を戻し、ショックウェーブは自身の腕から発せられたホログラムによって映された僚機を見た。

《…特に重要な事ではないのだが》
《? どういうことだ》

かしん。
鋭い音と光を散らして、僚機であるサウンドウェーブは空で変形した。背面のバーナーを点火し、ゆっくりとショックウェーブの前へと降り立つ。
全くもって一体何の用だと彼を眺めるショックウェーブに、彼は一瞬もどかしげに表情を崩し、しかしこれでは埒が明かないと思ったのだろう、2、3歩踏み出すとショックウェーブを見上げた。


「地球の暦で、7月7日があるだろう」

「それがなんだ」

つっけんどんに返答する。
こちらが察しの悪い事がよろしくなかったのだろう、心なしか目付きが悪くなったような。ついでに言えば、機体熱も上がってきているような気がする。
気のせいだろうか。

「お前と」
「私と?」

普段きっぱりきっちりした性格の癖にいざというときにコレだ。深く考えることなくショックウェーブは僚機に言えぬ愚痴をサーキット内で思う。
言ったところでわかりきった反応を返されるのは見え透いているのだ、言うほうが馬鹿馬鹿しい。

「っ俺はお前と、」

サウンドウェーブの滑舌が、よりいっそう悪くなる。
焦っているのはよく分かるが、彼らしからぬ態度に無意識のうちにフレームが歪んだ。

「だから何だと言っている――」


ごおっ、と音が騒いでいる。鉄の欠片が暴風に飛ばされ、低音が機体を揺らした。
ショックウェーブの表情が嫌いな喧しさにより一層険しくなったと同時、サウンドウェーブが負けぬようにと声を張り上げ。

「ショックウェーブ、俺と」

「ショックウェーブサウンドウェーブ!閣下から急用だ、来い!!」


―…更に同時に乱入してきたスタースクリームの音に被せられ、半ば茫然とするサウンドウェーブの台詞はそこで打ち切られた。

特定の条件で言いたいことも言えなくなる自身に腹立つやら、間の悪過ぎる僚機に殺意が沸くやら、そしてやはり自身に腹立つやら。
元々性格は激しいほうだったが、ここまで行き場のない感情に怒鳴りたくなったのは、サウンドウェーブ自身とて有り難くないことに初めてだった。

「…くそ、」

手を出したいが、出せん。
マスクの下で舌打ちしつつサウンドウェーブはとにかくスタースクリームを呪っておいた。
なんだあのタイミングはなんだその運のなさはなんなんだ貴様の空気クラッシャー具合は!ふざけんな!
情報参謀としての、というかサウンドウェーブというトランスフォーマーである手前そんなことは言えなかったが、今なら視線だけで奴を殺せる、とサウンドウェーブは直感した。

「…本当になんなんだ、お前は」

それにショックウェーブが、深い排気をしつつ追い討ちをかける。
悪気どころか当たり前のように言ったことは分かっていても、ショックウェーブだから仕方ないとは理解していても、その言葉はサウンドウェーブの気を殺がせるには十分だった。


「…なんでもない。」

言えるわけがない。

「そうか」

お前を好いているなんて。
この泥の星のイベント事に託つけてまで側にいようとしたなんて。
そういう気持ちを持たないと分かっていても、自分だけは満足しようとした等と。
(なんて、浅ましい)


嘲笑を一つ零し、情報参謀はまた空へ潜っていった。






(配布元/告別)
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