「え、何その顔。 おいらその表情すっごくむらむらするんだけど」
「お前マルハナバチじゃなくてスズメバチだろ」

「顔色が悪いな… 剥いでやろうか?」
「断固拒否する」

「…スコルポノックの芸みるか?」
「…今度」

「おぅ大丈夫か? 娘の写真見せてやるよとびっきりの!」
「輸送兵といい貴様といい…」


ディエゴガルシア内を歩けば、人間どころかトランスフォーマー問わずやたらと話しかけられた。終結してからも自分から話しかけた記憶はないのだが、どうやら風の噂によると、オートボット並に小柄なディセプティコンの機体は目に付きやすく、かつ珍しいらしい。それで参謀だというだけで、それを探索しつつ話しかけるのは暇つぶしには最適らしい(失礼な話だ)。
戦争が終わってからは、敵も味方も同じ場にとどまっているのだから変なものだ。

戦闘に対し積極的で気が荒かった者が少しだけ他人に心を開いたり、元々恋人同士だが度重なる戦争で抱き付くことさえ難しかった者達が人目も憚らず愛を示しあったり、新たな趣味に目覚めたり(変な意味ではない)、今まで隠していた性格をさらけだしたり…ディエゴガルシアにディセプティコンが移住してからは新たな交流にそれが顕著になった。今までオートボットのみを眺め話し戦っていたNEST隊員らも例外ではなく、新たに追加された赤い目の彼等に、そのオートボットと違う異型さと復興の最中知った性格に次第に変わっていった。
NEST基地以外のこの星の住民は追放だの鎖に繋げだのと非難囂々だが、案外本拠地は平和だと思う。
――まさかあれも変わった者に入ったのだろうか。同盟を組んでから一体何か月経ったと思っているのだ。適応というものにショックウェーブが流された事はなかったはず、今更変わるなんてことは――

(確かに、付き合っている?はずなのだが)

自覚はしているし、嫌いだと言った覚えもない。が、ここまでくると不安である。


「――ッ、むぐ」

とまで考えて、続いた衝撃にサウンドウェーブは機体を強張らせた。気付けば自分の影が巨大な黒にかき消されており、奇襲かとケーブルを展開する。自分よりも二回り程も違う掌が首と口を同時に押さえ振り向けない。見える範囲であたりを確認しても、適当に歩いたのが災いし他の影は見当たらない。
―…平和ボケしたらこの様だ。
反撃しようと円形のパーツを青く発光させたその時。

下腹部を支える手が、そろりと腰を撫でた。

「なんっ!?」

言葉を失った。襲撃じゃない。 …セクハラ?
混乱したサウンドウェーブがまず考えたのは、どう対応しようということだった。過去に何度か恨みを持つ者達にそういう事はされそうになってきたが、まさか協定が結ばれた今されるとは思ってみなかった。
というより。

「…ぃ、」

―手つきが、なんというか。
出ない言葉に戸惑っている間にも、その手はサウンドウェーブの機体を撫でる。そろりそろりと動く度にサウンドウェーブは眼を細め、苛立たしげに首を振った。
さわ、と。
手が大腿部を撫で上げたと同時に、サウンドウェーブは自由だった腕を出したケーブルもそのままに背後へ振りあげ、叫んだ。

「――っいやらしいわ!!」

サウンドウェーブの全力がこもったケーブルは本日二度目の唸りを上げて、襲撃者――恋人であるショックウェーブに叩き込まれた。




攻撃と防御に徹したエイリアンタンクのトランスフォーマーだとはいえ、火力は幹部級のサウンドウェーブの一撃は重かったらしく、惚けたように座り込んでいる恋人に、ケーブルを引っ込めながら、サウンドウェーブは行動の理由を聞くべくその腕を軽く引っ張った。座っている高さと彼の高さが同じであるため、引っ張りあげる、ということが出来ないのはたまらない、可愛い――というのは後の恋人の呟きだ。

「手つきで直ぐにわかった…」
「それはよかった」
「褒めてない」

足早に倉庫裏に向かうサウンドウェーブに対して、ショックウェーブは大幅に脚を動かしてゆっくりと付いていく。黒に近い紫の機体と、白に近い銀の機体が並んで歩く様はNEST基地内でも大分目立っていたのだが、連日の恋人の行動に振り回され続けた彼が勿論気付くわけもない。
光が当たる箇所と影の箇所両方が鋪装された地面を広がる倉庫裏に付いたサウンドウェーブが最初に言い放とうとした言葉は、「サウンドウェーブ、愛してる」という近日悩みの種になっている、かの台詞にかきけされた。
瞬間、呆れたように細められていたフレームが歪み、アイセンサーの光がぐ、と強くなる。


「…新しい悪戯か?」

可愛いなあ科学者殿、とサウンドウェーブは苛立ちを隠さず低く笑った――それが楽しさからではないのはいうまでもなく。
ショックウェーブ曰く可愛く(いまいち理解出来ていないのが現状だ)言い返せればまだよかったかもしれないが、一週間立て続けにまったくもって範疇外なことをしでかした男に対し、冷静に対処する気には到底なれそうにない。
大人気ないとは思うのだが。
それでもやはり、互いに頭を冷やさねばにっちもさっちも進みそうにない――…と、サウンドウェーブが深く排気したと同時にショックウェーブが動いた。

「っ貴様、」

サウンドウェーブの機体が強張るのを強く抱き締め、ぐいとその機体を引き寄せる。胸の装甲に顔を押さえ付けられたサウンドウェーブから聞くに耐えない罵倒が吐き出されるが、ショックウェーブは意に返さずに、何度目かの台詞を囁いた。
囁く度にサウンドウェーブの機体熱は上がり、同時にショックウェーブの拘束は強くなる。


「愛してる」
「あいしてる」
「すき」
「好きだ、愛してる」
「サウンディ」
「好きだ」
「昔から、これからも、」

至近距離で言われ続ける言葉に耐えきれなくなり悲鳴に変わるのは、遅くはなかった。




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