サウンドウェーブがサンダークラッカーにストーカーの如く(咎められなかったのは偏に彼が情報参謀であったからである)付き纏っていたのはデストロン周知の事実であり、最近そのサウンドウェーブとサンダークラッカーがまさかの恋人として成り立ったのだという事もまた周知の事実である。

それだから、いい加減体が疲れてこないか、っつーか何もされてないよな何もされてないと言ってくれ!とまぁこんなように。
スタースクリームとスカイワープが空色のジェットロンの肩を引っ掴み抱き締めその身を案ずる光景も日常と化しつつある。
最初は照れていたサンダークラッカーだったが日をおいて激しくなる兄弟機の心配性(ただしサンダークラッカー限定である)に今となっては苦笑いと呆れが混じっている訳で――


「本当に大丈夫だってんだ!!」


普段温厚な彼が声を荒げるのも致し方ない。



「でもよぅ…」

サンダークラッカーの腰に後ろから抱き着き顔を埋めたままのスカイワープが間延びした声で首をふり、

「こんな良い奴をなぁ…あの陰険野郎がなぁ…」

倒れ込むようにして右脚を掴むダージが床に頭を擦りつけながら溜め息を吐き、

「ほーんと勿体ねえ…」

同じく左脚に土下座するような体制でスラストがアイセンサーを冷却液で滲ませ、

「なんだか相手があのストーカーだって考えると、うん…」

スカイワープとは逆向きの腰にすがりついたラムジェットが顔を暗くして、

「畜生俺がサンダークラッカーをもらうんだった!」

正面から抱き付いているスタースクリームが、かの白い彼が聴けば素っ飛んで来るであろう台詞を叫んだ。


「…あのなぁ」

ただ、それらは抱き付かれ人形と化しているサンダークラッカーからすれば心配からくる行動だからこそ非常に否定しにくいもので、更に言えば彼は件のストーカー…もといサウンドウェーブの恋人である。彼の過度のアプローチに応えたのは自分の意思だし、それなりに恥ずかしかったものなのだからあまり掘り返さないでほしい(デストロンにしてはあまりにも平和的で、デストロン幹部には無理な話である)というのが本音だ。
ただそれを伝えても詮索が止まないあたり、心配と共にセイバートロンに住んでいた頃から培われた野次馬根性が沸いているのだろう。

「なあ、サンダークラッカー!」

「ああもう嫌だっつってんだ!分かれ馬鹿スクリーム!!」

「だが断る!」

「天の邪鬼がお前さんの性分なのはわかってるがドヤ顔やめ!」

確かに彼のストーカー行為は異常だった。
初めは純粋な好意故の行動だと思ったのだ――陰湿陰険と噂される彼が行なった行動をそう解釈出来るのはサンダークラッカーだからこそであるのは言うまでもない――が、ふと気付いた時、いつも何かしらの偶然をもってして彼と顔を突き合わせており…
水力発電や火力発電の襲撃時に気付いたら隣りにいたのとか、帰ってきたらエネルゴン渡されて肩叩かれてアイツらしくもない労りの言葉を言われたのとか、なんかスリープモード解除したらアイツに馬乗りにされていたとか、カセットロン達にエネルゴンクッキー作ってやったら抱き締められてキスされたのとか、特に怪しむ事なんてないけど偶然ってホント凄いよなぁ。と同型機に酒の席で愚痴ったのだ。

無論、スタースクリームとて(反省を覚えないとはいえ)馬鹿ではない。
サンダークラッカーの台詞に、スタースクリームの浮かべた表情は尋常ではなく、折角整っているフェイスパーツを寄せ嫌悪を丸出しにし「怪しさ満点じゃねえか!!!」と怒鳴るなり未だ話を理解していなかったスカイワープにサウンドウェーブのそれを簡潔に伝え、まだ確定していないとはいえ十分にストーカーと言えるとスタースクリームに焚き付けられたスカイワープまで同様の表情を表したのだからたまらない。
あの変態カセットが!!と2体が同時にサンダークラッカーの前から消え(恐らくスカイワープがスタースクリームの手を繋いだ上でワープしたからである)、あまりの展開の早さに口を半開きにしていたサンダークラッカーだったが。

数アストロ秒後に己の発言が原因だと気付きあっと声を上げた時と、酒場での一連の台所劇場を目の当たりにしたミックスマスターが何とも言えない表情で彼の肩を叩いた時はほぼ同時であり、間を置かず情報参謀の部屋からは彼の兄弟機の怒声、続いて爆発音が響いたのだった。

それが、数ヶ月前。



その後これで近付く事は少なくなるだろう――断定が出来ないのは致し方ない。防衛参謀御墨付きの陰湿さが情報参謀にはあるので――そう力を抜いた兄弟機達だったが、どういう訳か。あれよあれよと言う間にサウンドウェーブとサンダークラッカーは離れるどころか親展を深めてしまった。
ナルビームを兄弟機二体から受リペアルーム行きとなったサウンドウェーブをいたく狼狽しつつ心配し共にリペアルームへ入っていった辺りから、サンダークラッカーは時折何かを思い出しては赤面し、そしてそれに思い起こされたかのようにサウンドウェーブに何かと話しに行くようになった。

スタースクリームとスカイワープが気付いた時には後の祭りで。


かくして冒頭のようなやり取りがデストロンでサンダークラッカーを中心に繰り広げられるようになったのである。
最初こそ酷くなった場合はお冠になったメガトロンが制止という鉄拳制裁を下していたが、中心人物であるサンダークラッカーを殴ろうにもその原因がサンダークラッカー本人ではないこと、情報参謀サウンドウェーブこそが根源であること、しかしデストロン軍の要である彼を引き出して殴るのはちょっと――…というように、やり取りに頭を悩ませつつもメガトロンはあまり首を突っ込まなくなった。
――こんな時でもやるべき仕事を何故ストーカーをと疑問に思う程素晴らしい手際で纏め上げ、サンダークラッカーの件をどうしたものかと頭を抱えるメガトロンにちゃっかり提出するサウンドウェーブは流石と言うかなんというか。こちらも素晴らしいゴマすりと日和見である――

そして今日もまたジェッツらはサンダークラッカーにあいにいくのだ。

「ほらよ、スタースクリーム」

「ん…」

ヒステリックに叫び続けて発声モジュールが痛み大人しくなったスタースクリームの前に、加工されたエネルゴンの小さな塊が出される。支える指ごと食べるかのように彼は大口を開けたが、よけられた。
もご、とスタースクリームの口が膨らませながら動く。
左を見ればスタースクリーム同様もごもごからからと口を動かすスカイワープが。
視線を戻してアイセンサーを瞬かせスタースクリームは目の前の水色に目を細めて、口内のエネルゴンを喉奥にずらすと口を開いた。

「お前さ、」

ん?エネルゴンを配っていたサンダークラッカーが振り返る。

「なんでアイツにしたんだ?」

付き合うまでの間サウンドウェーブのアタックはそれなりに続いていたが周囲から見てもストーカーそのものだったから、デストロン一番の常識人?(疑問が入ってしまったのはたまに垣間見える腹黒さと年寄りかと思われるような行動言動が大半の原因である)であるサンダークラッカーが彼を選ぶ意味も、ストーカーをすっ飛ばしたサウンドウェーブの行為を邪魔しなかった自分もスタースクリームは理解出来なかった。サンダークラッカーのお人好し加減が恋人を作る作らないに影響しないと思い込み、すっかり油断した結果これである。
お人好しでありデストロン一のことなかれ主義者は陰湿陰険と名高いストーカーに手を差し延べてしまった。
今更悔いても仕方のない事とはいえ、解せないというか、腹立たしいというか。
一番関わってほしくなかった機体と事柄に、水色の兄弟機は今回ばかりは予想を裏切ってくれた。

なんでとか言われてもなぁ。

スタースクリームの葛藤など露知らず、サンダークラッカーはキーボードを打つ手を止め顎に手を当て首を傾ける。無意識に行われているであろうパーツの移動は性格故か、どことなく柔らかくて可愛らしい。
だからこそ理解したくねぇんだよ、と舌打ちを隠さないスタースクリームの表情が一掃悪くなったのはいうまでもない。

「…わからねぇや」

当人は数回アイセンサーを瞬かせた後、へらりと屈託のない笑みをこぼした。
案の定、というか色々と残念である。オォウ、と肩を落とすスタースクリームとスカイワープだったが、あ、と慌てたように呟いたサンダークラッカーを見上げ、

「サウンドウェーブだからじゃないかなぁ」

これも無意識なんだろうなと考えながら、ほわほわという擬音がよく似合う笑顔で惚気られたことに盛大に落ち込んだ。

追い討ちである!!








――話は変わり、件の情報参謀と航空兵が付き合い始めた頃…――


サウンドウェーブの部屋にベッドに腰掛け、何を話すでもなく手のみを繋ぎ互いが互いに寄り添いながら。サンダークラッカーとサウンドウェーブはいた。

どれだけ周りにストーカーと罵られようと邪魔されようと屈さず―――一般的な表現としては語弊のあるものだが、常人とは言い難いサウンドウェーブである―――ストーカーを妥協した(諦めの潔さはもはや彼の癖になっている)航空兵サンダークラッカーと接触を始め数週間、慣れぬ常識に戸惑いつつもサウンドウェーブはサンダークラッカーに改めて自分の想いを告げた。
結果は見事玉砕…ではなくサンダークラッカーのあどけない笑みと共に照れくさそうに告げられた「…俺も」という了承の意。
いくらワーカホリックとはいえ好きなものには凝り固まった感情でさえも傾くもので、マスクとバイザーに隠れていたからよかったものの随分気の抜けた表情をしていたに違いない。
きょとんとしたサンダークラッカーを抱き締め、見えていないと分かっていても顔が直視出来ない位、かつてなくサウンドウェーブは喜びに陶酔していた。

ぐりぐりと頭を甘えるようにすり寄せサウンドウェーブ、と名前を呼んで来るサンダークラッカーにサウンドウェーブは穏やかな声で応え、サウンドウェーブ本人もサンダークラッカーの肩に顎を乗せる形で彼を抱き寄せる。元来格闘向きではない華奢なジェットは簡単にその腕に収まり、空色のジェットは一瞬驚いたようにアイセンサーを瞬かせた後、そっ、とサウンドウェーブを抱き締め返した。

兄弟機達が見たら悲鳴を上げるか砂を吐き出すかのような甘さだが、生憎情報参謀の部屋の扉には「作業中」と本人が乱雑に書いたプレート――
過去に彼が書かないで軍事データを分けている最中、それを知らなかったスタースクリームが彼がサボっていると勘違いして飛び込みナルビームを乱射、データ解析をしていた機械が逝きサウンドウェーブの二週間分の努力が水の泡になったという凄惨な珍事の二の舞いにならないよう作られた――があるため、破壊大帝でない限りその扉を開ける事はない(珍事の後盛大なお仕置を食らわされたスタースクリームはそれを身に染みて痛感している)。

「サンダークラッカー…」

腕に収まった彼をサウンドウェーブは呼ぶ。おずおずと視線のみを上げた彼の顎に指をかけ顔を上げさせて、

「…んく」

サウンドウェーブ自身も首を傾けマスクを外すとサンダークラッカーに口付けた。
見開かれたアイセンサーを掌で覆い、指で輪郭をなぞるように頬を撫でる。繋いでいた手からは僅かばかりの抵抗感があるのか力が込められ、それに愛しさを感じたサウンドウェーブはサンダークラッカーの手首を掴み反転させると指同士を絡ませ握り返す。
控え目ながらも互いの感情を煽る水音と排気が口付けた位置から漏れる。どちらのものかも分からないまま、熱くぼうとした感覚は嫌なものではなく、だが流石に苦しさを感じたサウンドウェーブは口を離すとふはと空気を吐き出した


「ふっ…ぅん!?」

が、排気を遮るように再度口付けられた。

思わず身体がのけ反るが、背中に回されたサンダークラッカーの手が後頭部を掴み腰だけが逃げをうつ。その腰さえも絡んだ指から離れた彼のもう片方の手が素早く押さえ、唐突に口内に入り込んだ舌に身体をびくつかせたサウンドウェーブを強く引き寄せた。
サンダークラッカーの舌が彼の口内を舐めると、先程までの余裕はどこへやら、流されてはたまらないとサンダークラッカーをサウンドウェーブの手が押し返す。が、サンダークラッカーがベッドに膝を乗せ彼の押し返す腕を掴み上に上げさせると、

「、ぁ」

行き場を失った掌が宙を掻き、体重をかけたサンダークラッカーはサウンドウェーブに伸し掛かる形で彼のベッドに乗り上げた。
あまり明るさを好まない部屋の主の要望により一部にしか点けられていない照明はサウンドウェーブに馬乗りになったサンダークラッカーを背後から照らし、下にいるサウンドウェーブは必然的に淡い逆光で表情が見えにくいサンダークラッカーを見上げる。光さえも遮ろうとしているかのような彼の両翼に地球でいう猛禽類と同じ威圧感にサウンドウェーブは一瞬息を呑んだが、すぐさま押し倒されたこの状況を打破しようともがく。

「…っよせ」

なんでぇ、俺大丈夫だぜ?先程までの可愛らしさの面影を無くしたサンダークラッカーはそう俺に笑いかける(ところでその大丈夫、というのはもしかしてなくとも俺を抱く側として見ているのだろうか)。
…面影を無くしたというのは間違えかもしれない。再度口を塞がれながら思った。先程の顔は可愛さこそどこぞへ吹っ飛んでいたが、旧ジェッツ特有の整った顔立ちから作られるその笑いから不快感と違和感は全く無く――

(なんというんだったか)

暫くサウンドウェーブの口内を蹂躙していたサンダークラッカーが身体を起こし、深く排気した。思う存分貪られ呼吸荒くくたりと力を抜いたサウンドウェーブを見やり、少しだけ目尻を下げて、

「…どうだった…?」

そう聞いて来るものだから。

「…」

そんな顔をされたら言いたい事も言えないだろうという言葉すらも飲み込んで、けれども返事をしない訳にもいかず、顔に熱が集まっていくのを誤魔化すついでにその情けない表情を浮かべるサンダークラッカーに抱き付いた。

(――嗚呼あの笑顔は)

(…男らしい、というんだった)

どうしてこうなった、と心情穏やかでなくなったサウンドウェーブの心境を、そうか、と嬉々として覆い被さるサンダークラッカーにわかるはずもなかった。

――彼はブレインスキャンが出来なかったので。









今日も今日とて戦いである。

休みもなくて疲れちゃう、とブロードキャストは肩を竦め、カンだのコンだの緊張感の感じられない音で満たされた本日の戦場に前に息を吐き出す。戦場とはいっても誰も致命傷を負わないし、コンボイがいい考えが発動したりメガトロンを振回したり崖から落ちたりするだけだ。
時折飛んで来る弾丸を屈んで避ける。
直ぐさま上体を起こして、辺りを見回し更なる砲撃を躱し走った。機体と機体の間を縫うように動き回りながら、普段ここまで動きたがらないのに(一部のサウンドシステムを除いてだが)、ここまで興味を惹かせられた情報の主を探す。
情報は、サイバトロンに負けず劣らずのザル警備だったデストロンに潜入した時ラジカセの姿で聞いて、ブロードキャストが目の敵にしているかのサウンドシステムである。
それを聞いた時は思わずトランスフォームを解いてしまい勿論バレて飛行部隊らによるチキンレースに強制参加をさせられ地獄を見たのだが。

聞いてしまったら最後まで気になるじゃないか。…それがあのサウンドウェーブの話なら、尚更。というのが本音である。

だが、サウンドウェーブに聞くのは流石に危ないので。


「―サンダークラッカー見ぃっけ!」

「ッぅわあ!?」

彼にバレないようにデストロン内でも温厚な部類に入る――というか情報の中心にいるのが彼とサンダークラッカーなのだから致し方ない――善は急げと言わんばかりにサンダークラッカーに接触した(ど突いたとも言える)。

「え、あ?」

ブロードキャストの下で目を白黒させて口を半開きにしたサンダークラッカーに、ブロードキャストは目の前の情報を秘めた機体ににやにやしながら脚を抱える形に座れるようその機体を助け起こした。

押し倒したのはブロードキャストなのにも関わらず起こされながら礼を言うサンダークラッカー。
改めて向かい合って座り込み、ブロードキャストはサンダークラッカーに笑いかけた。

「初めまして、サンクラちゃん」

「ちゃん…?」

「細かいことは気にしない気にしない。…直球に聞くけどお宅面汚しとどんなお関係?」

「関係って…」

そりゃあ、とサンダークラッカーが続けたところで、

「あ、うし」

ろ、とサンダークラッカーが言ったと同時に風を切る音と後頭部から鈍い衝撃。押し出されるようにぐえと漏れた声に倒れていく自分の体を立て直そうと上を見上げると、サンダークラッカーの間の抜けた顔が見えた。
両手を付いて身体を支える。が、風を切る音に続いてやってきた二度目の鈍痛に今度こそブロードキャストは地に沈んだ。


「何をやっている、イカレサウンド」

げ、という言葉を隠さずにブロードキャストは舌打ちした。面倒くさいのが来た。
それを読んだのだろうか、ごりごりと頭を踏まれる。

「死ね下衆」

「はん、どっちがさ…っぐあ!」

サウンドウェーブはもう一度ブロードキャストの頭をごりと音を立てて踏み躙ると、逆の脚で彼を腹から蹴り上げた。
砂埃を立て体制を立て直したブロードキャストがアイセンサーを向ければ、顔が分からなくとも怒気をもらす宿敵の姿。
わあ怖い、と形ばかりの台詞を吐き出すと、彼は警戒の姿勢を崩さないまま極めて明るく、そして沸き出す愉快さを隠さずにサウンドウェーブを見つめた。

「…で、どう?最近はさあ」

切れた口角のオイルを拭いながら、サウンドウェーブの背後に庇われるようにいるサンダークラッカーに声を掛ける。
自分がまた声を掛けられるとは思ったいなかったのだろう、へ?と裏返った声が返ってきた。
頭擦れ擦れに撃たれたビームを避けながら、ブロードキャストは目の前の彼を眺める。


(なんつーかなぁ)

情報は、"サウンドウェーブとサンダークラッカーが付き合っている"というものだった。
勿論驚いたといえば間違っているとは言えないのだけども、飛行部隊から逃げている最中、見つかってしまった事ではない苛立ちが沸き上がっているのを感じた。…それがまだ分からないというのは、腑に落ちないのだけど、今は気にしない事にする。

とにかく、確かめたかったのだ。

「ねぇサンクラちゃーん」

「なんだー?」

あらら、返事はしてくれるのか。イイ子だなぁ、なんて改めて呆気にとられながら、ひとつ強力な電波を返し隙ができたところを、ぐんと加速してサウンドウェーブの懐に飛び込んだ。
腰を掴んで手を押さえ込んで、こいつの恋人だなんて、と思いつつサンダークラッカーを見る。
ちょっと強く光ったアイセンサーに、炙られたようなちりちりとした痛みを感じた。

「コイツ好きなんだ?」

「ぉう」

「へえ、やっぱり?」

そう言われると、なんだかやっぱり苛々した。腕中にいるのは忌々しい面汚しのはずなのに、どうしてかサンダークラッカーを見ると力を込めてしまう。
意味もない意地を張っているのは分かっても、易々と彼にくれる訳にはいかない(とはいっても彼等は恋人同士らしいので、そこに俺の介入する余地はこれっぽっちもない)。

目の前の彼には罪はない。
そりゃあまあ俺をこんなにも苛々させる情報の中心ではあったし俺も男らしくない八つ当たりもしたし、しかも恋人を抱き締められているのだから十分心中穏やかではないだろう。
だから、この苛立ちがなくなればいいと思って言ってやった。


「キミに面汚しは勿体ないよ」


瞬間、暴れていたサウンドウェーブの機体がびくりと揺れて静かになった。

…怖がってる…?ふうん。こいつ怖いとかあるんだ。
抱き締める力を強めて笑いが堪えられなくなった口角を弛めてサウンドウェーブの肩越しに見える彼を見――

「あれ」


瞬時に飛び込んだ、赤い光。
あ、やばい。ブロードキャストがそう思ったのも一瞬で。



「――アンタにサウンドウェーブは勿体ねぇよ」


三度目の衝撃に暗転しかけたアイセンサーに映りこんだのは、宿敵を愛しげに抱き込む男の姿。


妬けちゃうなあ、なんて柄にもなかった。






(キミに失恋、アナタに初恋)




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