彼はただ一人黙々と仕事をこなしていた。参謀にすらなっていない彼が坦々と新人以上の情報を捌き崩し再構築しまとめていく異様な光景を眺める輩は多かったが、多過ぎる情報、そして付き合いを一切否定している彼の取っ付きにくさ故に声を掛ける者はおらず、しかし彼は気にすることなく書類を脇にどけると引出しから取り出したキーボードに手を滑らせる。

この瞬間、初めて彼の吐息が漏れた。白いマフラーで口元を隠しその唇は見えないが、確かにほぅ、とそれが聞こえた。濃い青色の髪をかきあげ、次いでそれを真新しいデストロンの軍帽を被って軽く押さえる。お世辞にも綺麗な纏め方とは言えない。しかし、バイザーとマフラーで人間らしさとでもいうのだろうか、それらが感じられにくい外見の彼を、乱雑に纏められた髪の毛は上手く隠していた。


――たん、たたん。

病的な程に真白な指がキーボードを叩き始めた。規則的に並べられたキーの上を彼の指が跳ねる、跳ねる。
光を反射する赤いバイザーに先程まで彼が弄っていた書類のデータが反転して写り、赤にはっきりとした青白い四角が薄暗い部屋にちかちかと点滅する。いくらからかいの対象であっても坦々と仕事をする姿は見飽きたのだろう、それに彼の部屋は個室な上ケーブルが張り巡らされ非常に見た目が悪い。気付けば回りに意味もなくうろついていた名前も知らぬ野次馬はいなくなっており、彼の回りはひやりとした、そして何処か静観な雰囲気の何かに包まれた。



数分後また息を吐いて、彼は動きを弛めた。忙しなく鳴っていたキーは大人しくなり、同様彼の指も疎らにキーを叩くばかりだ。
ウィンドウが開いては閉じ閉じては開き。纏められた資料データをとある人物のパソコンに送ると、タイミングが良かったらしい、了承の連絡が返される。新人である彼に与えられる返信は周囲からみれば実に羨ましいものだが、他人との交流を絶っている男である、首を少し傾け返信を一瞥すると彼は回転椅子に深く腰掛けた。
ずり下がったバイザーをそっと上げて、肘置きに片肘を置きそのまま身体を傾ける。全体的にほっそりとした四肢は椅子を軋ませる事無くそこに身体を委ねた。バイザーやマフラーにより、その表情は見えない。
中指が、最後のキーを叩く。


――たん。

彼の名前は、サウンドウェーブといった。




(配布元/告別)


戻る





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -