音のない世界に身を沈めていたが、ふと、気配を感じた。重力のないふわふわとした空間を上下左右も分からないまま浮かぶのは嫌いではなかったのでその行為は非常に億劫だったし、何より任務に関係のない事だし、とはいえ気配を感じた事にはかわりはないので彼はアイセンサーを起動させる。機械音と共に最初に映ったのは、忌々しい今にも消えてしまいそうな淡く青い星。だがその景色に気配の正体は写ってはこない。疲れでもきたのだろうか、そうアイセンサーを伏せようとすると、咎めるようにまた、気配を感じた。
視線を気配の方向――右だろうか、左だろうかわからないがちらと視界を何かが横切った。それは非常にゆっくりとした鉄の塊だった。その見た目は見覚えがあり、尚且つそれは一回ではなくこの星を監視している中で何度か見掛けたものだった。
大気圏に突入しかけている塊は、きっと星の有機生命体からも見えているだろう。案の定、映像と情報を伝える有機生命体を同時に星に発信する下等機械を片手間がてらハッキングすれば、騒がしい耳障りな音と共に暇つぶしになりそうな求める情報があっという間に手元に入った。


『人工衛星――が――近日中に墜落するそうです』
『人工衛星――は長い間広い宇宙を旅し、そして私たちに――』

そうだ。この塊は、己がハッキングしている機械の仲間か。彼は自身が絡み付いている機械を一瞥し、そして直ぐさま流れ落ちていく塊を見た。ハッキングしている機械とは違い、愛称なのだろうか、星から塊に向けた呼び声には星に存在する名詞がつけられ、更にほかの情報機器をハックすれば塊の墜落を嘆く有機生命体の声が多々聞こえた。

『――彼には――』

落ちる塊には感情移入して今ハックされ情報を奪われるだけの塊には気付かないなどなんて滑稽な事だろうかと彼は思ったが、所詮は暇つぶしの延長線、白銀の主から与えられた命令には掠りもしない事である。彼は大気圏に触れごうごうと赤く光出した哀れな塊を何ともなしに眺める。

燃えていき墜ちて剥れていくその銀の装甲と姿に、誰かによく似た影を見た。



(配布元/空想アリア)
戻る





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -