――ダン!
「ぐっ」

損傷の分からない身体に加え、起き抜けの脚に響く衝撃らは並ではなく思わず呻いた。どうやら高く見積もりすぎたらしいと思いつつ、過ぎた事は仕様がない。
自分が寝かせられていた金属板を見上げると予想以上に高く、舌打ちをして周りを見るとどれも規格外の大きさの為何が何処なのかすら理解が難しい。一度降りたからには前進あるのみとは考えたが、逆にここまで違いがあるととてつもない違和感を感じ居心地が悪かった。

(鎖に繋ぎもしないで寝かせてどうする…)

痛む肩を苦し紛れに回しサウンドウェーブは息を吐く。

鎖に繋がれなかったのはいいことだし飛び下りる事も出来たのだからいいのだが。台から降りても異変がなく、今だって目の前の扉を開く方法を考えながら扉に手を触れているのにアラームも鳴らず、もしも鳴ったらそこの隙間に逃げ込もうと身構えていたサウンドウェーブは強張っていた肩の力を少し抜いた。
ここまでザルなロボットもどうなんだろうと頭を過ぎったが、すぐさま、彼等は人間に手をかけるのが面倒なんだろうそうだそうに決まってると――そんな彼等ロボットが電車を持ち上げたり持ち上げたロボットにタックルしたり、サウンドウェーブにラリアットをかましたと理解されている水色の彼についての矛盾は、サウンドウェーブ自身この時それなりに動揺していたので――自己完結した。

サウンドウェーブは扉の前に立ち少し首を振ると、それを下から上へと視線を上げた。
いつしかのトリコロールカラーが優に通る事のできそうな扉だ。その堂々とした佇みと薄い青と銀を基調としたそれにサウンドウェーブは、デパートの自動ドアを連想した。と、考えて、彼はふと思い付く。

(まさか)

離れた床に散在している沢山の金属の山。しっかりしているのでゴミと言うより見た目は機材、と喩えた方が正しいのだろう(情報操作が得意なだけで機械生命体はさっぱりなので)、持てる重さの部品を探しそれらを扉の前に積み上げる。
持ち上げられるものの方が多く、更に言えばそれが自分の身体を乗せるのに十分であったということは有り難かった。その分、ますますここに自分を放置したロボット達にこの気味悪い程の好条件はどういうことかと突っ込みたい。

なんとか自分の身長を越す程度の、足場がしっかりとした山が出来た。インドア派の自分にしてはよくやったとサウンドウェーブは荒くなった息を吐くと、器用に古墳のように広げ高く積み上げたそれらの上に慎重に乗り、扉伝いにてっぺんまで脚を運ぶ。

(まさかな…)

立って、ぴょんと跳ねた。

「……くそ」

1人なのにも関わらず阿呆な事をしたと猛烈な恥ずかしさを感じたサウンドウェーブだったが。少し赤くなった顔を薄い金属片で扇ぎ、抱え込んでいた膝を伸ばし再度立ち上がると、

「ふっ」

両手も挙げて跳ね直した。

この時サウンドウェーブを知る第三者がいたならば、仲が悪かろうとおいどうした大丈夫かと声をかけるだろう光景の中、サウンドウェーブ自身もそれはそれは乱心しており。

(嘘だろ)
(なんで今)
(音、鳴って)
(―ッなんで手を伸ばしてジャンプしただけでセンサーが反応してロックが開く音がするんだふざけんなロボットだろ機械生命体だろお前ら真面目に警備しろ!!)

恥ずかしいやら情けないやらで顔を覆い悶絶する彼に追い討ちをかけ、「さあどうぞ」と言わんばかりに扉がスライドした。






一方変わり、サウンドウェーブの位置より遥か奥。


「――そうか。以前変わりはないようだな」

大柄な白銀のトランスフォーマーは、これまた巨大なモニターに映し出された紫のトランスフォーマーを見上げながら己のフェイスパーツを撫で、紫のトランスフォーマー――白銀の彼はレーザーウェーブと呼んだ――は白銀のロボットに金目を瞬かせながら排気をし、

『本当にあれを置くのですか?』

言外に信じられない、と続けてもおかしくない声音でそう続けた。

「心配するなレーザーウェーブ」

白銀のトランスフォーマーは彼を宥めるように笑いかけた。
渋みを感じさせ、尚且つ高いカリスマ性が溢れた力強いそれに、レーザーウェーブは単眼にも関わらず器用にカメラアイを瞬せ肩を揺らす。しかしメガトロン様。そう呟く声に覇気はなく、顔は伏せがちである。
いつになく感情を落ち込ませている忠臣にメガトロンと呼ばれた白銀のトランスフォーマーは首を傾げつつ、モニターを力強く見上げ口を開く。


「安心しろ。 奴をワシ等の不安材料にはさせん」

だからそれが不安なのですメガトロン様!!

レーザーウェーブが珍しく荒げたその声は、メガトロンがモニターの出力を切った為聞こえる事はなく。



沈黙したセイバートロン星のモニタールームの中、


「あぁ…不安だ」

行き場をなくしたレーザーウェーブの声がゆらりと地に落ちた。






サウンドウェーブは、天井に近い位置にいた。

(…)

困った、と眉を顰めてはいるがそのロボットの手の中から抜け出そうとしないのは、そのロボットがあまりにも比較的おっとりとした(褒め言葉である)――

『身体大丈夫か!?』

開いた扉で鉢合わせしたサウンドウェーブを咎める前に、膝をつき小さな彼を両手で包み、大層焦った声をかけた――サウンドウェーブの`ラリアットをかました危険ロボット'という偏見を大いに覆し、`超がつくお人好しかつ阿呆なロボット'とサウンドウェーブが認識したからである。何度もいうが、サウンドウェーブに悪気はない。
予想が裏切られ滅多に感情を表さないサウンドウェーブに続けてかけられた電子音は、彼――ロボットの持つ名前(サンダークラッカーと彼は名乗った。)と、他愛もなくいくらロボットとはいえ覚える必要のないロボットの世間話。

殺さないのかとぼそりと呟くサウンドウェーブに、両手に収まる彼を大切に運ぼうと顔を強張らせたロボットは殺す訳ないじゃないかと返した。

「逃げようとしたのにか?」

あれは警備と扱いが悪かったんだとは言わずに、サウンドウェーブがサンダークラッカーを見上げる。


「あ、 逃げようとしてたのか」
「…」

あのサウンドウェーブとの鉢合わせの意味を理解していなかったのか、合点がいったと空色のロボットは機械音を出しつつふふっと笑った。機械の癖に冷徹さがない感情の籠ったその笑い方に、

「―笑うな。馬鹿」
「墓穴掘っちゃだめだろ、人間」

サウンドウェーブはサンダークラッカーが笑いにより肩を大きく揺らした事で不安定になった巨大な掌の中、一つの指にしがみつき、人を食ったような話し方をするサンダークラッカーを睨んだ。

「サウンドウェーブだ」
「ああ分かった、サウン……うぇぶ?」
「ほんとにお前ロボットか?」
「うっせ!」

サンダークラッカーの足取りは止まらず、ひたすら前へ前へと進んで行く。
いくらロボットの掌に乗って通常の視点より高い位置にいるとはいえ、歩く場所もロボットサイズなのでは意味がない。高すぎる天井と終わりの見えない廊下によって作り出された飲み込むような暗闇にサンダークラッカーの脚が進んで行くのを見て、サウンドウェーブは一瞬、息を止めた。

「…何処へ、いく」

サンダークラッカー。
片手を掛けた彼の指を強く握り、サウンドウェーブは彼の名前を呟く。

「メガトロン様のとこ」

返された言葉に見上げた彼の表情に悪気はないのは明らかだが、そうもあっさりと言われると…とサウンドウェーブはあからさまに眉間に皺を寄せた。
勿論腐っても人間の心情なぞ存じませんな悪の軍団の一員である彼に複雑な心持ちなサウンドウェーブのそれなどわかるはずもない。


「…お前の上司か」
「おう」

サウンドウェーブの意味もない呟きを、側にいるサンダークラッカーはその意図理解しないまま拾い、返し――



「そうだな。ワシはお前の上司だ」


…で、何故捕まえた人間がここにいる?


――背後から聞こえた低いその声に跳ね上がったのだった。





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