恐ろしい程にメガトロンに忠実で、それなのにも関わらずある時はメガトロンを蹴落とそうと不忠義者として認識されているスタースクリームに従い、ある時はそのスタースクリームの行動を止め別の方法を促したり――

「今まで私はたくさんのトランスフォーマーを診てきたけど、」

アンタのようなトランスフォーマーは見たこともない――というように、ディセプティコン軍医としてネメシスに搭乗する事になったノックアウト曰く、情報参謀サウンドウェーブは未知と畏怖に包まれた稀有なトランスフォーマーだった。




スタースクリームに呼び出されて命令を押し付けられ、5分も経たない内に廊下に突き返されたノックアウトは悪態を隠さず扉からはなれると、スタースクリームの命令と共に乱暴に突き出されたデータを少し解体し、内容の細かさに深い排気をした。
なんたってあの航空参謀サマはこんな面倒なものを任せてくれるのだ。
現在ネメシスに搭乗している幹部組と俺とブレークダウンとヴィーコンズの人数把握とその重量、それに必要なネメシスの燃料の量、エネルゴンの一定精製による燃料の確保テストにより確定された生産量、要はそれら総てを纏めてブレインに叩き込めと言うのだ。これもメガトロンから離脱した後の布石にするつもりだろうか、スタースクリームは――こんなデータ叩き込んだって、メガトロンの他にも得体の知れないトランスフォーマーはいるというのに。
―サウンドウェーブ、とか。

あの表情の読めない、というかフェイスパーツが液晶になっている情報参謀をスタースクリームは恐れてないんだろうか。確かに今はメガトロンは意識を取り戻さ(戻しそうにもないが)ず実質スタースクリームが一番に治まっているが、よくいるじゃないか、最後まで静かだったのに、いざとなったら有り得ない力強さで戦況を覆す輩が。
サウンドウェーブなんかまさにそういうタイプなんじゃないか。
これでも自分はセイバートロンで生まれて数々のトランスフォーマーを見てきた。その中で情報型なんていうのは腐る程見てきたし、それらの特色も特異さも観ていく中で理解して、治療の際には大いに役立ってもらった。
ただ、まるっきり話せないトランスフォーマーはいなかったのだ。
ただの機械ならまだしも―…機械生命体と呼ばれるトランスフォーマーの中で、先天的に発声モジュールがないという者は。

ここまで考えて、ノックアウトは「怪我でもしたのだろうか」とまとめ、理由をメガトロンか、スタースクリームか、はたまたオプティマスか…と、首をひねり、動きを止めた。


「…やぁ、サウンドウェーブ」

無論答えはこない。
ノックアウトはブレインに溜まった彼への思考を脇に追いやり、目の前の参謀を見上げた。改めて見ると、やはりメガトロンの側にいるにはスタースクリーム同様細過ぎる男だ。
恐ろしいもの程美しいとはよく言ったもので、サウンドウェーブは存在感がまさにそれを体現している。ミステリアスさはもちろん、飛行形態をスキャンした為に薄く長くなった腕、そこから生えたこれまた細い指、首から腰にかけて淡く桃紫に光るライン。
止まっているだけで感じるこの威圧感はいつまで経っても慣れそうにない。心こそこもってなかれど、嗚呼やっぱり美しいとノックアウトは直感的に感じるのだ。

(―だからこそ)

「サウンドウェーブ」

ノックアウトを視界にいれると共に身体を反転させ元の道に戻らんとする機体を、ノックアウトは呼び止めた。
機体の特異な形状故に振り返ると身体を全て向けなければいけなくなるサウンドウェーブは、動揺も何もかも感じさせない滑らかな動きでノックアウトに向かい合う。ただ、この行動に意味はあるのか?続けてそう言うようにこてんと首を傾けた。

「どうしてアンタは喋れないんだい」

下からそれを見上げながら、薄く笑ったノックアウトは同じ方向に首を傾ける。液晶に我ながら気持ち悪いくらいいい笑顔を浮かべた自分が映ったと同時にサウンドウェーブが身を引いたので、少しは続くかと思っていた問答は問答ともいえない呆気なさで終わった。

普段ならここで、「情報参謀様の御考えする事はわからん」とこちらも踵を返しそれで終了、ということになるのだが。
沸いた疑問の、我ながら鼻で笑える程度の下らなさ。にも関わらず、あの澄ましたサウンドウェーブにその疑問を問い何もされなかったのだ。こんなに運の良い事はない。

あっという間に離れて行ってしまった彼の背中を追う。


「喉は怪我で駄目になったのかい」

彼のヒールが鳴るペースは変わらない。

「セイバートロンで情報型はよくいるけど、まさか破壊大帝の側近にいて死なないなんて不思議なんだ」

彼が向かう部屋まではまだまだ時間がある。この際死ななければ塗装が剥れなければ、何を言われたって何をされたって収穫はあるはずだ。


「――それともウイルスとか何かで―… ああでもアンタは情報型だもんなぁ、あるかもしれないしないかもしれない よし、仮に怪我として質問を続けるよ」
「事故?」
「先天的?」
「もしくは―…」
「あぁ、これ以上は俺も分からなくなっちまうな」
「サウンドウェーブ、アンタは謎が多過ぎる―… まあそのミステリアスさが中々クるものがあるとか いや違った今の無しで ヴィーコンにもそれなりの人き… あぁクソ、すまん今のも無しで」
「困るな、ブレインがこんがらがっちゃって」
「話を戻すとこんな感じだ どうしてアンタがメガトロン様に付いているのか、声がないのか」
「―…情報型は声あってこそ主に進言出来るんじゃないのか?」
「たくましい声、柔らかい声、高い声低い声間延びした声地を這うような声、テノールにバスにアルトにソプラノ…私なら造れる」
「不便なら言っておくれ、喜んで手を貸そ――」

かつん。
そこまでノックアウトがまくし立てたところで、真紅のボンネットに軽い感触がくる。


「…何か?」

サウンドウェーブの指がスパークの位置に近い場所をつついていて、ここまできてこの返答とは逆に白々しいとは思うのだけれど、とノックアウトは浅く笑った。

(殺されるということはないようだ、が)

彼の言葉無さから生まれた無音の言葉――彼の表情は流石のノックアウトでも理解出来るものであり、ぐいと近付いた液晶に波打つ波形は赤く黄色く、警戒色であるのは確かだった。怒っているのだろうか、それとも煩わしくなったか。恐らく後者だろう。ノックアウトはサウンドウェーブから目を逸らし塗装が傷付かないように一歩下がる。
ノックアウトはジェスチャーで両手を上に挙げサウンドウェーブを見た。肩を竦める行動を見せつければ、彼は暫く赤い軍医を眺め、ぱっと手を放し進むべき方向へ歩き始めた。
複雑に組み合わさっているとは言えがっしりとした彼の脚は、かつんかつんと音を率いて目的地へ向かっている。


(―よく言うじゃないかブレークダウン、)

「サウンドウェーブ」

脚は止まらない。

ふと、それをおうようにノックアウトが口が開いた。




「アンタも酔狂だな――目覚めない主に忠誠を誓うなんて、」



それが失言だとは彼は思わなかったのだが――彼の身体が`何か'によって壁に叩き付けられた事で、彼はアイセンサーを激しく点滅させた。


「ぐ…」

塗装がどうのこうのの話ではなくなり、ショートした肩パーツを押さえ首を上げる。
―サウンドウェーブの身体から伸びた触手とサウンドウェーブの無機質な液晶が視界に映り、しかし先程の衝撃と彼の接点が掴めず何も言葉を発せないノックアウトは


『`ノックアウト'`医者は医者の仕事をしろ'』


頭上から降ってきたスタースクリームの継ぎ接ぎ声に、ようやく衝撃を与えてきた主がサウンドウェーブであると理解をした。
淡々と起こされるそれらの行動に薄ら寒いものを感じ慌てて機体を起こそうとするが、針金のような指がボンネットにめり込み、触手が腹を押し息がつまる。後押しのようにもう一度強く腹を押され咳き込んだノックアウトが数秒後顔を上げると、見えたのはメガトロンがいるリペアルームに消えて行くサウンドウェーブであった。







いつしかの光景を思い出しながらノックアウトは目の前で繰り広げられた戦闘の後に目を細めた。
メガトロン不在を狙い反旗を翻そうとしたエアラクニッドをサウンドウェーブが苦なく掴み狙撃し投げ飛ばしたその光景は、妙に懐かしくそして苦い。確かにあれは驚いた――だからこそあの後彼に下手な行動は起こせなかったのだが(ただそれをスタースクリームに言う事など出来なかった。直ぐにメガトロンが復活し、彼が重症を負ったからである)。

「思い出した」
「何がだ?」

ブレークダウンの問いにノックアウトは妖しく微笑み、

「サウンドウェーブコマンダーのこと」

あの時と同じように踵を返し歩いて行く背中を眺め、彼は助手を見ず肩を震わせて笑った。



「よく言うじゃないか、『綺麗な薔薇には棘がある』ってさ。」





(配布元/虹女王)
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