日常の中では間違いなく感じることのないであろう感触にアンブロンはおかしくなりそうだった。抑えるように息を吸っては圧迫感に小さく喘ぎ、吐いた拍子を狙い更に押し込まれたコネクタにひんと泣く。
自分より大きい、ロストライトの中でも堅物かつ複雑な立場にある男の荒く排気する音を聴覚センサーの真横で聞かされながら、アンブロンはひたすら声を出すまいと口を押さえていた。
「〜〜ッぃ、ひ…っさい、くろなすっ、」
「聞こえている」
そうじゃなくて、というアンブロンの涙混じりの声は聞き流される。ばかやろうと舌っ足らずな僅かばかりの罵倒とその逞しい背中に爪を立てる抵抗をするも、残りをぐぷりと押し込まれて四肢が戦慄く。
開けっ広げになった脚の間にサイクロナスの体が入り、挙句その奥深くに彼のコネクタが入ってることが信じられない。だって、彼はとても大きいし、なにより、こんな事をするような男だとは考えてなかったので。
そもそもなんでサイクロナスと接続なんてしているのかと聞かれたってアンブロンにはわからない。
ほんのちょっと前、テイルゲイトの話で盛り上がって(とはいっても彼は無表情のままだった)、リペアルームで話し込んで、ラチェットに「話すなら外でやれ」と言われて出て、珍しく話が続いたのが嬉しくて自室に呼んで話を膨らませようと思っただけで、よもやその彼と荒く息を吐いて機体を密着させるようなこんなふしだらなことをしようとは夢にも思わなかったのだから。
「んっ、ぐうゥ、ふッ…」
揺さぶされ、密集した柔らかいコードを硬いそれが押し退ける。ぬるぬるした潤滑油の中滑るようにコネクタが出し入れされて、背筋を駆け上がる強い快楽に思わず仰け反った。両手を使って口を押さえても、予想できない衝撃にどうしても声が漏れてしまう。
コネクタですらほとんど使用しておらず、いつ使ったかも覚えていないレセプタでこんなに快楽を得ることになろうとは。
情けないやら恥ずかしいやら、しかしやめようにもやめられずサイクロナスに突き上げられるごとに耐えきれない声が押し出される。
「ぁやっ、んんん…ッ!!っっひィ、ああァ!?」
慌てて抑えるも、苦しくなった排気がわかったようで吐けと言わんばかりに奥を叩かれた。思わず覆いかぶさる男を睨みつけるも、冷却液で滲み快楽に淡く発光するオプティックでは何の意味もない。「声を出せ。辛いだろう」どの口が言うか。
「お前が、こんなことっんん、するっからぁ…!」
「俺はお前の声が聞きたい」
「サイクロナス、あんたはオレの話を、ん、…聞けっ!!」
頼むから!とサイクロナスの顔を両手でこちらに向ける。いつもより焦りを含んだような表情と欲を向けるその視線にスパークのどこかがじわと熱を持ったような気がしたが、詳細なんて知りたくもない。とにかく、この状況を、どうにかしないと。
「こんな、男のっ」
「アンブロン」
「なまえ、よぶな…ッ……じゃなくて、ぁっ…」
「俺は、続けたい」
「駄目だ…!!」
ここまで行為を進めるのを許しておいて、と言葉こそないものの視線はそれを物語る。実質アンブロンも胎内に入ったサイクロナスのそれに意識を持ってかれてはいるのだが、やはり慣れない行為とそれをしてる相手がようやく話せたサイクロナスだからこそ、止めなければ、と焦るのだ。
けれど、会話をしようとアンブロンが口を開ける度に、サイクロナスは自分の主張を伝えながら最奥を穿つ。声を出すなら文句以外のを、と暗に言われているようでそれがとても歯がゆい。
「頼む、からっ」
快楽と伝わらないもどかしさで大粒の冷却液がぼろぼろと落ちる。ぐっと落ちてきたサイクロナスがそれを舐め、切れ長の攻撃的なオプティックとは裏腹に存外柔らかい舌から、レセプタに埋め込まれたコネクタから彼の温度が侵食するようでアンブロンは甘い悲鳴をあげた。「ンン、あ、あ"ァ〜〜〜…ッ」震え声が弱まったところをがちゅんと強く突かれて、アンブロンのコネクタからオイルが噴き出す。
「っこんな、こと…して」
それでもアンブロンは、途切れ途切れにでも会話を続けようと口を開ける。
「オレのような、っぁ、おっさんの声なんか、聞いても、」
楽しくないだろう…?
普段の元ディセプティコンの面影を感じるきつい表情はみっともなく蕩けきり、甘い吐息と快楽にこぼれ落ちる冷却液と、隠しきれない泣きが入った語尾。
胎内に納まったサイクロナスのコネクタにぶるぶると震え、出そうとしては間違えて締め付けて自分で感じ入り、それでもなお止めさせようと黄色いオプティックをサイクロナスから逸らさない。
サイクロナスも、そんな彼の表情を見逃さまいと見る。彼は数秒視線を泳がせた後、アンブロンの片手に触れた。
「…俺は、あまり言葉で何かを伝えることはできないが、お前の声は、嫌ではない。それでは駄目か」
「バカじゃないのか…っ」
とは言うものの、アンブロンの抵抗はいくらか小さくなっていた。
オプティックを伏せて気まずそうにする彼の、半開きになったままの無防備なそれにキスをすると、どこの生娘かと思うほどに顔を赤くして硬直するものだから、サイクロナ
スは思わず笑った。彼にしては珍しく、笑い声は音に出る。
「わ、わらうなよっ」
そういうのが気になるからかこそ抵抗をしていたのだろう。怒ったり照れたりいそがしい男だ。それだからこそ、目が離せないのだが。
「…続けるぞ、アンブロン?」
聴覚センサー横で囁く。
抱いた機体がじわりと熱くなり、黄色いオプティックが淡く明滅し、空いていた唇がぐっと引き締められる。レセプタまでも締めてしまったようで、わずかに喘いで圧迫感に震えながら小さく頷くアンブロンはおおよそ元ディセプティコンらしくなく、そしてとても子供っぽい。
ずる、と奥を苛んでいたコネクタを引抜けば、背中をそらし喉をさらけ出して啼いた。
それでもなお声を封じようと口前に手をやるアンブロンのその手を取り上げ、空いている右手指を絡ませる。
手のひらを縫い止められ、かつりとサイクロナスの鋭い指先に顔の側面を捉えられて、白い指先がぴくり、持ち主の気持ちを代弁するかのように揺れる。それは一瞬躊躇するように竦んだ。が、赤い目と視線が合ったと同時にそっと握りこまれた。
「なんか、これは、すごく…恥ずかしいな」
接続で暴かれる時とはまた違う表情でアンブロンは照れる。
ああ、この男のこういう反応が初々しくてたまらないのだ。サイクロナスは満たされるような感覚を抱きながら思った。
「ンあ、やっ、さいくろなすっ…」
飲み込みきれない唾液に濡れた口元から掠れた声で名前を呼ばれると、その感情はもっと強くなる。わかっててやってないからこそ、サイクロナスはアンブロンから目が離せない。
「もっと、声を出せ」
「ぅわ、あ、あああアッ、待て、ちょ、ゆっくりィッ」
アンブロンの腰を掴み、突き立てぬように丸められた鋭い爪が時折掠り小さな金属音を響かせる。
イったばかりなのにと喚く口を塞いで手前に腰を引き寄せては突き上げ、剥がれた塗装に口付け、びくびくと痙攣すると同時に締め上げられるレセプタ内を堪能する。
開いた口からかは、かは、と熱い排気が吐き出される。
握りこんだ指先から伝わるアンブロンの感じている快楽の強さを知りながら、さらなる快楽を叩きつける。
「ッひぐ、ばかくろなすっ」
「違う」
「馬鹿っ、オレ、もう、イったんだって…ッ」
「そうか、俺は未だイってない」
「それはそうだけどっあ!?ァ、少し待ってくれたって、いいっ…ひぅ、じゃないかっ」
溺れかけながら、それでも文句はしっかり言うアンブロンがまた面白くてたまらない。
この、さでぃすと。
舌っ足らずな言葉と共に睨みつける彼に、サイクロナスは笑って言い返す。
「あまりこういった行為こそすることはないのだが」
蕩けたオプティックに、しかし、と続けるサイクロナスの、鮮烈なまでの赤が映る。
「――…こうやってお前を組み敷くのも悪くない、と思ってな。」
そう言って普段の引き結んでいる口の、その口角をくっと上げてアンブロンを見下ろし笑うサイクロナスの表情ときたら。
俗に言う悪い顔、というものだが、普段見れないだろう表情と、加虐と情欲に染まった視線とまともに目を合わせてしまって、その視線を逸らすこともできずにアンブロンはぞくりと震えた。
くそ、やっぱりサディストだ。ちくしょう。
でも逃げられないし逃げたくもない。
アンブロンに勝算などなかった。
「それに」
「…ひ、ァう!」
ぐっぐっと奥を押し上げられる。
「そんなことを言われて感じたんだろう?…アンブロン」
止めとばかりに名前を呼ばれ、至近距離でその笑顔と対面する。きっとお前はいい声で啼くだろうなとその声で囁かれると、あとはもうお手上げだった。
「…あー、ひどくしないでくれよ…?」
「……善処する。
と言いたいところだったが、お前は本当に、煽るのが上手い」
「えっ。」
蕩けた表情から一変、血の気を無くし引き攣った顔を見下ろして、サイクロナスはアンブロンの腰を両手で掴んだ。
狼狽えたアンブロンはまだまだ交渉を続ける。
「あっ、明日も仕事あるんだぞ…!」
「お前…煽ったのに言うことがそれか…」
「だってほんとうのことだろ、ぅわちょ、待ッふぁ!?」
「取り敢えず諦めろ」
逆効果なのは言うまでもない。
「あんんっ、はァ、あんた、また、デカくしてッ…!!」
幾分かの会話で体力を取り戻したらしいアンブロンの声を聞きながら、如何にしてその体力を削るかサイクロナスは考える。
やはり、獲物は弱っていた方がいい。
捕食者のような思考を抱いて、武人は獲物の下腹部をだらだらとオイルで濡らすコネクタをつ、となぞった。「ひ、ぐっ」即座に裏返った声がアンブロンの喉から絞り出されて、満足げに握り込む。
あ、あ、とか細く喘ぐその喉元に噛み付き、そのまま向かい合うように体を持ち上げ、その胎内をもっとと剛直を奥深く押し込んだ。
「いひゃ、ア、だめだ、それ、だめっっ」
何度も繰り返し胎内を擦られて、腰に感じるサイクロナスの手のひらの感触とわずかにかかる爪による傷にさえ感じてしまい、それに動揺する間もなく続けざまに与えられる終わりのない快楽に溺れそうになる。
頭を振って嫌だと訴えるのも虚しく、自重で下がる機体をサイクロナスが下から上へ責め立てて言葉だって満足に紡げない。
「だめだって、言って、る、のにぃッ…!!」
「それにしては、いい声を上げる…っぐ、」
「ばか、やろ…! ッぁ、ひぃ…ッ ふぅ ふあ、あ"、あぁぁあ!! しゃいくろなす、だめ、え、ぁ、なんかくる、くるッ」
力が入らない四肢を抱きしめられて、ぐちゃぐちゃと突かれて、痛いという許容量すら超えた快楽を真っ向から受け止めるハメになって、大きな胸に頭を押し付けひたすら甘受する。
冷却液は出過ぎて目が霞むし、揺さぶられる度に出てしまう声は音声回路に負担をかけたようでとうに掠れた。
それでも快楽と支えられる背中に当てられた手のひらが愛おしくて、本気で抵抗する気にはなれない。
「アンブロン、アンブロン…ッ」
大嫌いな名前も、こいつになら呼ばれてもいいか、なんて思ってしまうからこの感情は恐ろしい。
もっと呼べなんて女々しいことも言えなくて苦し紛れに口付けると、普段はそんなに見えない歯が覗いた口が噛み付くようにアンブロンの口を食べた。息継ぎのあいだにまた名前を呼ばれて、それが泣きたくなるくらい嬉しい。
腰を掴む手に力が入る。
背中を支える手が逃がすまいと肩を抑える。
「────…〜〜ッぁ、はァああっ……!!」
サイクロナスの甘さをもった吐息とレセプタに注がれる熱源に、アンブロンはオプティックからひとつ、冷却水の玉をおとした。
「…オイル」
「飲む」
「機体」
「腰がやばい」
「声」
「聞いたとおりだ」
いろいろと溢れた冷却液で機体を冷やさぬよう差し出されたシーツにくるまれて、アンブロンはサイクロナスの問に端的に答えていた。
「…いささか無茶だとは思うが、昨日のアレは忘れるべきだ」
「何故」
「何故って」
酔って接続に及んだわけでもないので、アンブロンもサイクロナスも共にばっちり接続の記憶は残っている。付き合うなんてそもそも今まで言葉にも出たことはなかったし、接点だってテイルゲイトの話くらいしかない。
なにより「オレが恥ずかしさで死にそうだからだよ」これの一言に尽きる。
レセプタをつかった接続は初めてではなかったが、よもやあんなに、それこそ記憶消去しようかと思うほどに乱れてしまったたなど黒歴史以外の何者でもない。
「というわけだからな、お互いのために忘れるべきだ。」
「…」
サイクロナスがこたえないのを、アンブロンは大方、こちらとの関係を後悔しているのだろう、と考えていた。
考えていた、のだが。
「…アンブロン、洗浄室に行かなくていいのか?」
唐突にかけられたその台詞に、目を丸くして顔を上げた。
サイクロナスはいたって真顔、通常通りである。
「せんじょうしつ…」
ああそうだ、洗わないと。
腰をさすって脚を床につけて、アンブロンは体制を立て直す。
そしてサイクロナスを見上げ「流石にもういなくてもいいんじゃないか?」と声をかけた。サイクロナスは答えない 。
ああやっぱりコイツも嫌な思い出作っちまって後悔してるんだろうな、となんだかスパークが痛むような気持ちになりながら脚に力を入れ、
「サイクロナス、もう、いいから…」
腰の痛みに、べしゃ、とベッド脇に落ちた。
もう一度、腕に力を込める。
ぶるぶるとみっともなく震えて、今度こそ床に突っ伏した。
「───さてアンブロン、勘違いをしているお前に俺から提案をしよう」
そこへサイクロナスの声が降ってくる。
「ひとつ、俺は好きでもない男の声を聞きながら接続出来るような質ではない。」
「ひとつ、俺は洗浄室に行くことすらできない男の前にいる。」
「ひとつ、俺はお前一人くらいを抱えて連れていってやることができる。」
アンブロンを抱き上げたサイクロナスは、その攻撃的に赤いオプティックを逸らさずに彼を見た。
急に視界が開けたこととサイクロナスに抱き上げられていること、そして彼の顔が近いことにアンブロンは酷くうろたえた。
「ゎ、あ、さい、くろなす、あの、」
「残りは洗浄室で考えればいい」
「ばかっ、おろせってば…!!」
どうして、どうして、顔が近いだけなのに、なんでこんなに熱いんだ!!
アンブロンが顔が熱くなる理由に気付くのは、それからじっくり洗浄室で洗われて、今度は体を起こせないほどに腰を痛めてからである。
(どうでもいい補足ですがアンブロンとサイクロナスが会話しているシーンはございません)
(テイルゲイトと話してるシーンもございません)
(ただアンブロンの死に方があまりにもアレだったのでフォロワーさんと葬式ムードで話し合った結果「そうだ包容力ありそうなナステイに挟んでもらおう」というわけのわからない結論に達してしまっただけで)
(マイナーどころかこじつけですらないのにうっかりハマってしまっただけで)
(衝音もなんだかんだでそうだからやっぱりそういう性癖なんだと思います)(はい)
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